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ストリート・オルガン・フェスティバルを訪ねて

ドイツ ヴァルトキルヒ文・写真/村上泰造

 カメラや顕微鏡、蓄音機、ラジオなどなど大人の科学好きにはたまらないテクニカル・アンティーク製品を扱うドイツのオークション ティーム ブレカー。この日本窓口として活動され、オルゴール・オルガンの修理や輸入をしておられる村上泰造氏によるドイツ~スイス、ストリートオルガンをめぐる旅を3回にわたってご紹介します。なんと、ふろくの鳥オルガンも本場ヨーロッパに上陸です!

 第1回は、2008年6月13~15日、ドイツのヴァルトキルヒで開かれたストリート・オルガンフェスティバルのお話です。ヴァルトキルヒはドイツの南、フランスとスイスに近い「黒い森」地方の人口約2万人の小さな町。日本では木彫やカッコー時計で有名な地方です。

 

オルガンのふるさと

 ヴァルトキルヒはオルガンの製造で名高く、特に1806年にイグナツ・ブルーダーが手回しオルガンを作り始めてからは多くの工房ができ、またフランスなどのオルガン会社がこの町の豊富な木材や優秀なオルガン職人をたよって工場を作りました。ですから、ヴァルトキルヒは手回しオルガンの製造にあってヨーロッパの中心のひとつであり、そこで作られたオルガンはドイツばかりでなくヨーロッパ中で演奏されたのです。

 現在も教会やコンサート・ホール用、ストリート・オルガンの工房がいくつかあり、「オルガンのふるさと」ともいえる町なのです。

イグナツ・ブルーダーの肖像(中央)とオルガン。

オルガン祭り

 3年毎に開かれるオルガン・フェスティヴァルは今回で9 回目。ドイツはもちろんスイス、フランス、ベルギー、オランダ、イギリスなどヨーロッパ各地から、また前回に続いて南米チリからも参加がありました。祭りが開かれる週末の金曜の午後、町の主な通りはクルマは通行止めになり、役所前の広場に回転木馬が組み立てられ、いよいよ気分は盛り上がります。

 そして土曜のお昼にはこの小さな町は、オルガンと見物の観光客であふれます。

 集まってきたオルガンはベルトで肩にかけて演奏する小さなものから、専用トレーラーで運んでくる大型まで、また年代ものからつい最近のものまで様々。100 以上のオルガンが町の広場や通りに並びます。

 昔ながらのコスチュームで着飾った人たちが自慢のストリート・オルガンを順々に演奏していきます。通りに面した商店のウィンドウには、オルガンや編曲の譜面、オルガン作りの道具や工具も飾られて、町はオルガン一色です。

回転木馬の音楽も自動オルガンです。

トレーラーに載せられた大型のオルガン。


町の通りはストリート・オルガンでいっぱい。

絵物語をオルガンの伴奏で歌ってきかせている。

チリのオルガン・ティーム。

 ストリート・オルガンが盛んだったころは、蓄音機もラジオもない時代。流行りの歌はさっそくオルガン用に編曲され町の人を楽しませたそうです。また新聞が読める人も少なかったころでもありました。オルガンを演奏しながら当時の事件や逸話を描いた大きな絵を棒で指し示して面白おかしく歌って聞かせる大道芸も盛んだったとか。そんな様子を再現した演出も町のそこここに見られます。

 さてチリのティームはバレル・オルガンの演奏にあわせて、シンバルとトライアングルつきの太鼓を背に軽快にステップを踏むダンサー。ヨーロッパではもう見られなくなった当時のままの手回しオルガンの大道芸が、チリではチンチネロスという名前でまだ続いているのです。オルガンと見事なダンス、打楽器の演奏で周囲はいつも人が輪を作っていました。

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