2月だ。昔の呼称では如月。今年はうるう年だから29日ある。立春は4日。旧暦ではこの立春の時期が元日だった。いわゆる旧正月。四柱推命や風水などでは、今も立春で年が変わるとする場合が多い。だから節分の豆まきは、本来は新しい年の到来を祝う儀式だったらしい。
とにかく暦のうえでは春。でも実感としては1年でいちばん寒い時期。特に関東地方は毎年2月から3月にかけて、なぜか雪が降ることが多い。
だから首都圏動物記を書く立場としては辛い。虫や動物はほとんどいない。
でも実のところは、冬だからといってほとんどの生きものが、死に絶えたり地中にもぐっているわけではない。たとえばタヌキ。山間部のタヌキは寒冷期には穴の中にこもるが(冬眠はしない)、平野部のタヌキは、冬場も餌を求めて活発に動き回る。
2ヵ月ほど前の深夜、僕はほろ酔い状態でタクシーに乗っていた。柏のインターを降りて国道16号線を千葉方面へ走る。道は空いていた。そのとき一瞬、前方を照らすヘッドライトの灯りに、道の脇に転がるネコの死体のようなものが浮かびあがった。
「タヌキだ」
僕は思わず言った。
「タヌキですね」
運転手さんも言った。それから車はゆっくり減速した。
「お客さん、いいですか」
僕はうなずいた。今にして思えば、何が「いいですか」なのかわかるはずはないのだけど、でも何となく察しはついていた。
タヌキは道の端に転がっていた。ホンドタヌキだ。見た目には外傷はない。でも明らかに死んでいる。
運転手さんがスーパーのレジ袋を手にして車の外へ出た。僕も後に続いた。運転手さんは馴れた仕草でタヌキをレジ袋で包んで持ち上げると、道の脇の草むらに死体を置いた。
「カラスにやられちゃうかな」
僕は言った。
「でも車に何度も轢かれて、ぺしゃんこになるよりはずっといいですよ」
運転手さんはそう言いながらうなずいた。優しい人だ。草むらに横たわったタヌキの死体を、僕たち2人はしばらく眺めていた。