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写真・文/森達也

第13回 苦手な生きもの

 深夜に仕事を終えて寝室に向かう。枕もとの灯りをつける。シーツをベッドから引き剥がしながら、ふと横を見る。
 ……そのまま数秒フリーズ。これは困った。僕はそのままの姿勢で後ずさる。
 壁に貼り付いていたのは巨大なゲジゲジだ。脚の先まで入れれば10センチ近くある。いわゆるオオゲジ。自宅は首都圏とはいえかなりの田舎にあるから、時おりいろんな虫が部屋の中に侵入しているけれど、さすがにオオゲジは初めてだ。
 あわてて仕事部屋からデジタルカメラを持ってくる。オオゲジは壁に貼りついたままじっと動かない。数枚の写真を撮る。かなり近づいたけれど動かない。フラッシュの光にも動じない。

 撮り終えてから、ティッシュでそっと摘まんで(強く掴むと脚を自切してしまうのだ)、窓の外に放り出した。本当はティッシュなどで包まなくても大丈夫であることは知っている。でもやっぱり生理には抗えない。世の中にはできることとできないことがある。今の僕には、素手で彼らを掴むことはちょっと無理だ。

 ゲジゲジとは実のところ通称。正式和名はゲジ。漢字で書くと蚰蜒。僕のパソコンのワード機能にはこの言葉はない。「げじ」と打って変換キーを押しても、「げじ」と「ゲジ」の二つしか示されない。
 それにしても何でゲジなのだろう。ゲジゲジとなると濁音が四つ。とにかく蚰蜒。名前に虫が二つ。くどいほどに虫。でもゲジゲジは正確には昆虫とは違う。節足動物唇脚綱のゲジ目に属している。近縁はムカデだ。
 そういえば虫偏って奇妙だ。たとえば中空にかかる荘厳な七色の光の束。つまり虹の漢字も虫偏だ。なぜ虹がよりによって虫なのだろう。
 昔の中国では、 虫(蟲)はいわゆる昆虫だけではなく、動物全般を表す言葉だった。たとえば羽蟲なる表記は鳥類を意味している。毛蟲は四足の獣全般で、甲蟲は亀の仲間だ。鱗蟲は魚類を表している。そして羽蟲の王が鳳凰(ほうおう)で、毛蟲の王が麒麟(きりん)、甲蟲の王は玄武と称される亀で、鱗蟲の王が龍なのだ。だから蟲は龍の意味でもある。確かに空にかかる虹と龍のイメージなら、重複しても無理はない。

 というところでクイズ。裸の蟲とは何でしょう?

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