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第13回 苦手な生きもの

 最近はあまり見かけなくなったけれど、一昔前はスプレー式の殺虫剤がどこの家にもあった。そのほとんどの商品のラベルには、ハエやカ、ゴキブリやナメクジ、ムカデなどと並んで、ゲジゲジのイラストが描かれていた。どうやらゲジゲジは害虫の代名詞のひとつのようだ。それも位置的にはかなり上位にランクされている。少なくともハエやカ、ナメクジよりは、人に嫌われるレベルは高いだろう。

 広辞苑で「害虫」を引けば、

 人畜に直接害を与え、または作物などを害することによって人間生活に害や不快感を与える小動物の総称。

 と書かれている。小学校の理科の授業で、ナナホシテントウはアブラムシを食べるので益虫、ニジュウヤホシテントウは野菜を食べるので害虫と習ったとき、子供心に身勝手に過ぎないかなあとは感じていた。要するに人の都合なのだ。見方によれば、肉食のナナホシテントウよりもベジタリアンのニジュウヤホシテントウのほうがずっと平和だ。でも人は自分たちをこの世界の中心と考える。そのうえで世界観を構築する。まあ百歩譲ってそれは仕方がない。誰もが自分を中心に世界を考える。もしもナメクジがこの世界の中心になったのなら、この世界はまったく違うものになっているだろう。
 そこまでは認める。でもゲジゲジについては、「人畜に直接害を与え、または作物などを害する」要素はまったくない。むしろチャバネゴキブリなどの小さな昆虫を捕食するゲジゲジは、生態的には益虫の位置に該当する。でもなぜか害虫の筆頭。プロレスで言えばヒール。ヒール・レスラーの多くは実際には紳士が多いとの俗説があるが、ゲジゲジはその典型といえるかもしれない。 とにかく嫌われる理由はといえば、広辞苑による定義の後半部分「不快感を与える」に尽きるということになる。
 不快感を与える。何だか実も(ふた)もない。「感」の言葉が示すとおり、これはあくまでも主観だ。つまり感じない人もいれば感じる人もいる。
 でもゲジゲジは確かに、不快の度合いが高いようだ。おそらくは無数の(実際は前述のように15対)長い脚が与える印象なのだろう。もしもハムスターにあの脚がついていたら、やはり相当に気色悪い。あるいはゲジゲジにコアラの脚がついているならば、少なくとも害虫の筆頭の位置からは外されているだろう。

 夜行性のゲジゲジには、これといった天敵はいない。ほとんどの鳥やカマキリは昼行性だ。夜には捕食しない。クモなどは逆にゲジゲジに捕食される場合が多い。ゲジゲジの天敵は強いていえば人間だ。何しろ理由もなく殺されるのだから。
 来年はダーウィン生誕二百年。彼が唱えた自然淘汰説は、構造主義進化説や定向進化説、中立進化説などによって多少の修正は施されながらも、今も生命進化の基本原理であるといえる。生存における有利な形質が受け継がれるとの自然淘汰説に従えば、今から三千年後には、コアラの脚を持つゲジゲジが地上を徘徊しているに違いない。

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