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 セミは日本の夏の風物詩ではあるが、特に日本だけに多く生息しているというわけではない。全世界では3000種ほどが知られていて、分布としては、熱帯や亜熱帯の森林地帯に多く生息している。
 オスの成虫の腹腔内には、発声器官である発音筋と発音膜が備えられている。また大きく膨らんだ腹部の内部はほとんど空洞で、発音筋で発生した鳴き声は、この共鳴室でさらに大きな音に変えられる。これらの器官によって、セミはあの、ときには騒音に喩えられるほどに大きな声で鳴くことができる。
 鳴く理由はメスを呼ぶためだ。つまりナンパ。だからオスだけ。まあセミに限ったことではないけれど、その意味ではとても明快だ。雑念がない。……いやそもそもは雑念なのか。よくわからない。いろんな価値や尺度や基準とともに生きる人間からすれば、ナンパは最大の雑念なのかもしれないが、テレビも携帯電話も持たないし合コンやカラオケに行くこともないセミにとってみれば、ナンパは最も純粋な行為といえるのかもしれない。
 セミはメスを呼ぶために鳴く。でもそれだけじゃない。人や鳥に捕獲されたとき、種を問わずほとんどのオスゼミは、悲鳴のような声をあげる。翻訳すればイヤダア!とかヤメテエ!とかそんな感じ。まさしく身をよじるような声だ。述語としては「鳴く」よりも「泣く」のほうがふさわしい。

 コオロギなど鳴く虫は少なくないけれど、ピンチになったときにこれほど悲痛に泣き叫ぶ虫を、僕は他に知らない。たぶんいないと思う。まあこれも、苦痛や恐怖で泣いているというよりも、突然の鳴き声で敵を驚かせていると考えるべきなのだろう。あるいは他の個体たちに危険を知らせていると解釈することも(ちょっと苦しいけれど)できなくはない。
 もし多少なりとも後者の要素があるのであれば、これはまさしく滅私奉公だ。つまり全体への個の奉仕。

 長い地中での生活(アブラゼミなどで6年)を経てから、セミは地上に出てくる。カゲロウなどと並び、よくはかなさの代名詞のように使われるが、成虫になってから1ヵ月ほどは生きるし(1週間足らずで死ぬという俗説は誤りらしい)、何といっても地中生活を入れれば、儚いどころか長寿の虫の筆頭だ。

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