首都圏動物記のトップへ WEB連載 5

写真・文/森達也

第4回 千葉北西部のイトミミズ

 食料品や日用雑貨のほとんどは近所のスーパーで調達する。この買物が僕は大好きだ。新聞のチラシで見つけたバーゲン品を買うために、けっこう遠くのスーパーまで行ったりする。カートを押しながら牛豚合挽100グラム90円などの表示を見つけると、買うつもりはなかったのに、どうしても棚のパックに手が伸びてしまう(結局は冷凍庫行きとなる)。

 世の中にはいろんな趣味を持つ人がいるけれど、僕の趣味のひとつはこのスーパーの買物だ。買わないまでも陳列されている魚や肉の切身を見ているだけでも楽しい。……趣味のひとつと書いたけれど、考えたら他に趣味らしい趣味はない。ゴルフもしない。野球やサッカーにも興味はない。執筆中はたいてい音楽を聴いているけれど、これは趣味というよりほぼ日常だ。読書もしかり(でも最近は仕事に必要な資料や文献を読むばかりで、大好きだったSFも最近はまったく読んでいない)。ずいぶん昔は履歴書の趣味の欄にプロレス鑑賞と書いていたけれど、会場に行かなくなってからもうかなりの年月が経過したし、テレビもほとんど観ない(そもそも今もプロレス中継が放送されているかどうかもわからない)。

 そうなると趣味はスーパーの買物以外にあるのだろうか。連載初回に書いたプラナリアは今も僕の机の上の小さな水槽の中にいるけれど、これは趣味といえるのだろうか。何か違うような気がする。

 と、ここまでは字数稼ぎ。スーパーの話からつい脱線してしまった。その日も僕は、チラシで見た「99円均一セール」のコピーに惹かれて、家から車で20分ほどのスーパーに行った。ガソリン代と所要時間を考えたら倹約になっているかどうかわからないけれど、趣味だから仕方がない。

 買い込んだ商品を2つのレジ袋に入れ、車のボンネットに入れてから運転席に回ろうとして、駐車場と道路のあいだにある側溝にふと視線が向いた。コンクリートの蓋が乗せられた溝の横に、なぜか細い溝がもうひとつある。こちらは蓋がない。蓋のない溝は最近では珍しい。思わず近づいていた。中を覗き込んだ。懐かしい光景がそこにあった。

 イトミミズだ。溝の中の澱んだ水のそこかしこに、マリモのようにひとかたまりとなってゆらゆらと揺れている。子供時代、家の周りの溝にはいろいろな生きものがいた。近所のお年よりは、よく溝でヒルを掴まえては、裸の肩に乗せていた。何やっているのと恐々と訊ねた僕に、「悪い血を吸ってもらうんだよ」みたいなことを教えてくれた。痩せた肩の上で血を吸いながら丸く膨れあがったヒルの映像は、今も目に焼きついている。

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