首都圏動物記のトップへ WEB連載 5

第4回 千葉北西部のイトミミズ

 もっと子供の頃、父親の実家がある鳥取県の米子で夏休みを過ごすことが恒例だった時期がある。草深い田舎だった。家の前には小さな溝があり、清流が勢いよく流れていた。この溝はまさしく生きものの宝庫だった。よく目につくのはツチガエルだ。触るといけんよと伯母に言われた。臭い汁を出すからだ。それで目をこすると大変なことになる。ドジョウもいたしヤゴもいた。少し上流のほうに行くとサワガニがいた。大きなアオダイショウにツチガエルが飲み込まれる現場を見たのもこの頃だ。見つけたときには、カエルの下半身はアオダイショウの口の中にすっぽりと納まっていた。子供にとってはショッキングな光景だけど目は離せなかった。カエルは僕を見ていた。丸い2つの目を見開いてゆっくりと飲み込まれながら、じっと傍らの僕を見つめていた。助けようと思って側に落ちていた棒で突いたら、アオダイショウはあっというまに溝から這い上がり、カエルを咥えたまま藪の中に消えていった。

 都会と田舎の溝。生態系は変わるけれど、どちらも生きものは多かった。イトミミズは都会派だ。米子の溝にはいなかった。
 でも今や、溝で生きものを見かけることなどほとんどない。そもそも溝自体が隠されてしまった。だからこの数十年ぶりの再会は嬉しかった。

 いったん家に戻り、デジカメを手に再び駐車場まで引き返して写真を撮った。それがこれ。あまりいい写真ではない。言訳だけど、実はこのデジカメの使い方が、いまだによくわからない。マニュアルを読むことが苦手なのだ。機能がよくわからないので、水中のイトミミズになかなかピントが合わない。おまけにこのカメラ、おそらくは光量を自動で測定しているのだろうが、いきなりフラッシュを焚いたりする。そうなると水面に反射した自分しか映らない。いろいろ四苦八苦しながら20枚ほど撮ったけれど、使えそうな写真がなかなか撮れない。だからイトミミズを捕獲した。というかすくい取った。駐車場の管理人が、何か言いたそうに、じっと見つめていた。でも何も言わなかった。まあそうだろうな。僕ももし彼の立場なら、たぶん見てみぬふりをすると思う。

 イトミミズの分類は環状動物門水生貧毛類ミミズ綱イトミミズ目。近種にはユリミミズやエラミミズなどがいる。ちなみにペットショップなどで金魚や熱帯魚の餌としてよく売られているアカムシは、ユスリカの幼生だ。つまり昆虫。外見は似ているけれどイトミミズとはまったく違う。
 このマリモというか毛玉の1本1本がイトミミズだ。体色はかなり濃密な赤だ。雄雌同体。直径は1mmほどで体長は大きくても5cm程度だ。

 イトミミズが溝から姿を消した最大の理由は、上下水道の整備が進み、彼らの餌になるような有機物が堆積する溝が少なくなったからだ。ゆらゆらと水の中で餌を求めて動いているように見えるが、揺れているその先端は実は尾部だ。頭部は堆積した土や有機物の中に潜り込み、口器からろ過しながら吸い上げた有機物を体内で分解し、尾部の先端から糞を排出する。
 尾部には扇のようなエラがついていて、水中の酸素を効率よく摂取するために、常にユラユラと揺れている。この動きのおかげで、溶存酸素濃度が相当に低い水の中でも、イトミミズは生息することができる。

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