首都圏動物記のトップへ WEB連載 5

第7回 小渕沢の蛾

 まあそれはともかく、10月初旬、山梨の山の中で、僕はこの蛾を見つけた。体長は4センチほど。けっこうでかい。種類はわからない。カメラを手にして近づいた。ここでちょっと驚いたのだけど、この蛾は人が近づいてもまったく逃げようとしない。
 気温が低いから動作が鈍いのだろうかと考えたが、前の夜は確か電灯の灯りに飛んできた。まだ午前中ではあるけれど、少なくとも夜よりは温度は上がっている。たぶん気温は関係ない。

 ためしに指で触れてみる。もぞもぞと動くがやっぱり逃げる気配はない。ふと横を見るとそこにも1匹(蝶の数の単位が「頭」であることはよく知られているけれど、蛾はどうなのだろう。ここでは匹にしておく)の小さな蛾。体長1センチほどのこの種類は、自宅の周辺でもよく目にしていたような気がする。これもやっぱり逃げない。さらに視線を転ずれば、もっと大物がそばにいた。体長は6センチくらいはあるだろう。

 3匹に共通すること。指で触っても逃げない。これは蛾の特徴なのだろうか。少なくとも蝶は逃げる。指どころか近づくことも難しい。
 で、読者にお願い。写真をよく見てほしい。特に1匹目の茶色の蛾の顔。下に違う角度からの写真を載せる。ウサギの耳のような触覚に真黒のつぶらな瞳。

 愛くるしい。
 3匹目もなかなか。だから寄りをもう一枚。やっぱり目は真黒。全身毛むくじゃらでぼってりとした体型は、ほとんどぬいぐるみだ。
 断言する。少なくともコアラよりははるかに可愛い。
 まあ外見が可愛い(つまり人間好み)からどうということでもないけれど、でも蛾に対するあまりに不当な扱いを考えれば、もう少しこの生きものに近づいてみることは必要だと僕は思う。山梨のこの一帯は、国蝶のオオムラサキの生息地として有名だ。5キロほど離れたところには、オオムラサキセンターなる展示館があり、温室ではオオムラサキが手厚く保護されている。
 それは僕らの都合。虫たちは関係ない。

 帰ってから図鑑を片手に種類を調べた。クスサンだのヒメヤママユだのエソヨツメだのフユシャクだのウスタヒガなど、いろいろな写真と見比べたけれど、結局はわからない。とにかく蛾は種類が多すぎる。まあいいや。名前や分類などこちらの都合。彼らはそんなこと気にしていない。

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