長い前書きだ。本筋はここから。店を出て新宿駅へと歩きながら、通りに捨ててあるゴミに群がるカラスに僕は気がついた。始発まではまだ少し時間がある。僕は1羽のカラスに近づいてみた。通りを歩く人は少なくないけれど、わざわざ足をとめる人はほとんどいない。たぶんカラスもあわてたのだろう。おいおい何だよという表情になりながら、小首を傾げてじっと僕を見つめている。至近距離で見るカラスは予想以上に大きい。でも時おり僕を気にしながらゴミの袋をついばむその仕草には、何となく理知的な雰囲気があった。獰猛で粗野で狂暴な鳥というイメージを持っていたから、このときの印象は強かった。たぶん3メートルくらいまで近づいたと思う。路上にしゃがみこんだ僕は、夜が明けつつある歌舞伎町で、カラスをしばらく眺めていた。
東京にカラスは多い。他国の都市でこんな光景を見た記憶はない。東京ほどではないけれど、インドのムンバイにはいた。スラムの裏通り、野菜くずなどが捨てられた下水構の脇、そこにはかなりの数のカラスがいた。でも日本のカラスとはかなり違う。真黒ではない。首の辺りがマフラーのようにグレイだった。ロシアやヨーロッパにもカラスは(多くはないけれど)いる。でも日本のように真黒のカラスは見たことがない。黒が基調ではあるけれど、もっと薄いし、斑になっている場合もある。
なぜ日本のカラスはこれほどに真黒なのだろう。考えたら不思議だ。これほどに黒い動物は他にいない。何しろ口の中まで漆黒なのだ。夜行性ではないから保護色にはならないし、警戒色でもないだろう。どうしても理由がわからない。