首都圏動物記のトップへ WEB連載

写真・文/森達也

第9回 我孫子のナナフシ

 長女が生まれてしばらくしてから、それまで住んでいた杉並区阿佐ヶ谷から千葉の柏市に引っ越した。
 初めてナナフシを目撃したのは、その引っ越した年の初夏の頃だ。近所の家の生垣の葉の上を、その長い手足をゆったりと動かしながら、ナナフシは静かに移動していた。
 その後もその家の生垣では何度か見かけた。これが僕にとっては初めてのナナフシ体験。長く憧れの虫だった。図鑑などには日本中のいたるところに棲息していると記述されているし、阿佐ヶ谷周辺にだって棲息していないはずはないと思うのだけど、とにかくこれまでは目にしたことがない。

 今は柏の隣の我孫子市に住んでいるけれど、やはり時おり家の周りで見かける。これまでの体験からは、近隣の雑木林や野原など自然が濃く残されているエリアよりも、どちらかといえば生垣とか庭とか、ある程度の人の手が入っているエリアに植えられた樹木などで見かけることが多い。
 その理由を推測すれば、大顎や毒針や鎌など、とにかく武器らしい武器は何一つ持たないうえに、動きが徹底して遅い虫なので、天敵となる鳥や肉食昆虫が少ない場所を好むのかもしれない。そうなるとチャバネゴキブリやハシブトカラスやクマネズミのように、好人性(これは好気性などの用語からアナロジーとして考えた僕の造語)の生きものということになる。
 分類としては、節足動物昆虫綱ナナフシ目という独立した群の昆虫だ。世界には2500種以上いるとされているが、日本には18種が生息する。どう見ても葉っぱそのもののコノハムシも、この仲間だ。コノハムシは葉に擬態するけれど、ほとんどのナナフシは小枝に擬態する。食べるものは葉。主食も副菜もおやつも葉。徹底したベジタリアンだ。

 写真のナナフシは、この夏に家の横の生垣で見つけたエダナナフシだ。文字どおり線が細すぎるから、なかなかピントが合わない。家の近隣では、エダナナフシ以外には、触覚が長いナナフシモドキも見かけたことがある。

 モドキといえば僕の世代は、マグマ大使のライバルであるゴアが地球制服のために送り込んできた擬似人間「人間モドキ」を思い出す。仮面ライダーのショッカー同様、何となく哀しい存在だった。あるいはガンモドキ。漢字で書くと飛竜頭。何で飛ぶ竜の頭が雁のモドキになってしまうのかよくわからないけれど、昔の人はこの味を、鳥の肉に近いと思ったのだろうな。

BACK 1   2   3   4 NEXT

首都圏動物記のトップへ このページのトップへ