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第8回 本邦初!? 富士の頂にて、宇宙線「ミューオン」を霧箱でキャッチする!

登れば登るほど気温が下がる。
霧箱はうまく機能するのか!?

 標高2780mの新7合目に到着。100万円もする高性能拡散型霧箱を壊すとマズイので、簡易版「霧箱」だけを担いで登ってきたのだった。平らな場所に位置を占め、早速実験準備に取り掛かる。

 アルコールを入れたガラスボウルを下からドライアイスで冷却、調理用ラップで蓋をしてその上にホッカイロを載せて温める。周囲から懐中電灯の光を当てて、黒いビニールシートをかぶり、3人が覗き込んだ。富士山新7合目で、こんなことをしている奴らは皆無である。見た目が実に怪しい。

 声をあげずにひっそりとやりましょ、と西脇主任。それだと余計に怪しく見えるじゃないか、と臨時村長金子が言いかけたとき、α線の飛跡が走った。β線も走ったが、5合目のときよりも数が少ない。武宏さんが、塩ビパイプをティッシュで擦って静電気を起こし、それでラップの上を軽く撫でる。霧箱内の雑多なイオンを除去するためである。

 ホッカイロよりも手の平を当てた方が温まるんじゃないか?と西脇主任が手を出そうとしたときだ、おおお、長いそして真っ直ぐな飛跡が走ったのである。しかもほぼ同時に3〜4本だ。

 「今のは絶対にミューオンです!」

 と武宏さんが叫んだ。5合目で見たたった一筋のあの飛跡に比べれば、我々は新7合目で宇宙線ミューオンの乱舞を目にしたと言っても過言ではない。

 おおお、と全員が感動に震える。が、しかし。更にもっと見たい!と金子臨時村長が唸ったその瞬間、パチッと音がしてラップが破れた。霧箱内が水蒸気の霧で充満してしまう。あああ、西脇主任の指の爪先がラップを破いてしまったのだった。

ミュ−オンを求めて上へ上へ!ひとまず7合目で実験!8.5合目を出発!すでに少し先に6合目の、その先に新7合目の山小屋が見えている。しかし登っても登ってもなかなか着かない。100m登るのに30分かかる。  9. 人目も気にせず武宏さんの指示のもと着々と準備を進める村民。
見える、見える!長い飛跡は、まちがいなくミューオンだ! 10 高度が高く気温が低いので霧箱内の温度勾配がうまくできない。そこでラップの上からカイロを温めた。その時、長く直線的なミューオンの飛跡が現れた。
 

憮然としつつ、金子は宣言した。

 「頂上まで登る!」

 実を言うと、新7合目を目指している登山中に、西脇主任は既にごく軽い高山病を発症していたのだ。これは体力・気力・知力にはなんら関係なく体質の問題なので、仕方がない。そのせいで、あの⋯腕がブレてしまい、ラップをつついてしまったのでした、と西脇主任は弁明したが、最高の瞬間をお前がぶち壊した!と金子臨時村長は執拗に責め立てた。

 酸素ボンベから新鮮な酸素を補給している西脇主任に、重いドライアイス入りリュックを無理やり背負わせ、金子は頂上を指差した。高山病の西脇主任を責め立てて、仕事一筋我は非情か。臨時村長は今日一日だけの自らの権力を目一杯振るいたかったのであろう。村長を飛び越え、臨時総理の意気込みだった。

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