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大人の科学実験村 第8回 本邦初!? 富士の頂にて、宇宙線「ミューオン」を霧箱でキャッチする!

調子にのって頂上をめざす。しかしつらい、つらすぎる…。 11.ごつごつした岩には足をとられ、冷気で体温とやる気を奪われる。12.気休めに酸素ボンベの酸素を吸う。体に鞭を打って一歩一歩ゆっくり登る。

富士の高嶺にたどり着いた3人、
宇宙線は拝めるのか!?

 7合目より上になると、さすがに空気が冷たい。しかも霧に包まれ、横からも下からも雨粒が飛んで来る。全員の足の運びが次第に緩慢になり、金子が立ち止まって言った。

 「西脇がもう限界だ。仕方ないので8合目で最後の実験とする!」

 ほんとは自分が、キツかったのだ。それを他人への思いやりにスリ替えて、妥協を図る見事さはもしかしたら湯本村長の域に達しているのかもしれない。

8合目で時間も体力も限界……。13. 8合目到着。山の天気は変わりやすく、あっという間に雲の中。それにしても寒い!
こんなところで何を?訝しげな登山客の視線が痛い。 岩陰で最後の実験!
14. 興味津々な登山客。「富士山で宇宙船…UFO?」「いえいえ宇宙線です。」  15. 黒いビニールシートにもぐりこみ、ミューオンを待つ。時々あがる歓声に怪訝そうな登山客。
 

 午後5時30分、3250mの富士8合目に到着。岩陰の最適な場所を発見、早速、霧箱のセッティングに取り掛かった。武宏さんが塩ビパイプをティッシュで摩擦し、静電気を起こす。しかし、両方ともが水蒸気の霧に濡れているため静電気の発生量が少ない。

 ミューオン観察のためなら、死んでもいい!⋯と思えるようにならなきゃ本物じゃないのだとオヤジに子どもの頃から教え込まれている武宏さんは諦めない。必死で静電気を起こそうとラップの上を撫でるように擦るのだった。

 そうしたら、飛んだ。走ったのである。霧箱の端から端までとはいかないものの、7合目で見たものより長いミューオンの飛跡が、最高潮の時には3〜4秒毎に1本の割合で、音もなく走ったのである。凄い!と西脇主任が声をあげる。もしも、今目撃した飛跡の中に超新星爆発の残骸からやってきたミューオンが含まれるならば、なんと西脇は今から約1000年前に発生した宇宙線をその目で見たことになるのだ。

オオッ!

 な、な、やっぱり無理してもここまで来て良かっただろ!と金子が叫んだ。そうしたらまた飛跡が一筋、霧箱内の宇宙を真っ直ぐに走ったのだった。今回の実験、大成功である。

16. 霧箱の中を最適な環境に保つために、ひたすら静電気を起こす武宏さん。17. ミューオンが次から次へと霧箱に飛び込み、長く直線的で力強い飛跡を作り出していく。 ミューオンばかりが乱れ飛ぶ!まるで美しく幻想的な流れ星だ!

 午後8時過ぎ、下山し終えた3人を5合目で出迎えた戸田先生は言った。
「山頂まで行けば、もっと多数のミューオンが観察できたかもしれません。しかし、よくやりました。『霧箱』を使った実験としては、恐らく最高高度だろうと思います。ですから、日本記録です!」 5合目の闇の中で、思わず拍手が湧いた。そして金子の臨時村長としての一日が終わったのである。最後に、本物の村長湯本が一言、

成功だ!金子助役、合格だ。でも、山頂だったらもっとたくさん見られたんだろうに…(村長)

 「温泉に行って針を打ってきました。こっちは体に電気が走ったよ。うははあッ!」

家で放射性物質を集めて放射線を観察してみよう!

空気中をただよう放射性物質ラドンをつかまえて、そこから出る飛跡を霧箱で観察してみよう。
ラドンはコンクリート中の岩石からよく出るので、1〜2日間空気の入れ替えがなく、壁面がコンクリートむき出しの部屋の空気を採取するといい。
戸田先生のHPで、今回使った霧箱を買うことができる。

霧箱

500mlのペットボトルを切ってじょうごの形にする。台所用の水切りネットをかぶせ、輪ゴムでとめる。ネットにろ紙を置き、掃除機でろ紙越しに1時間ほど空気を吸う(掃除機に負荷がかかり過ぎないようにペットボトルにはいくつか穴を開けておく)。

 

ゼムクリップを曲げてスタンドを作り、小さく切ったろ紙を立てて、霧箱の中に置く。しっかりラップをして懐中電灯で照らすと、ろ紙に吸着したラドンから出るα線の飛跡が観察できる。

もっとお手軽に飛跡を見たい人は⋯⋯ランタン用のマントルにはトリウムを含んだものがある。霧箱に入れると、たくさんのα線の飛跡を観察できる。(最近ではトリウムを含まないマントルもあるので注意。写真のモノがおすすめ。)

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