写真(1)は、ノイバラの赤く熟れた果実をくわえて、運んで行くジョウビタキです。写真(2)は、サルトリイバラの果実をついばんでいるヒヨドリです。下の写真(3)は、鳥のフンです。赤いのはノイバラの果実の皮で、黄白色のはタネです。これは秋に撮影したものですが、写真(4)は、次の年の春になって、そのフンのなかのタネから芽ばえたノイバラの苗です。
タネが生長して旅だちの準備が整うと、タネを育ててきた果実の皮が、それまでは緑色だったのに赤や黄色などキレイな色に変わる木の実や、草の実があります。鳥に食べてくれという合図です。
鳥は色づいた果実を食べるときにタネもいっしょに飲みこみます。タネは、固い殻に守られていて鳥の腹のなかで消化されることもなくて、やがてどこかでフンといっしょに落とされます。鳥の腹のなかに乗りこんで空の旅をしたというわけです。おいしい果肉は、航空運賃とでも言ったところでしょう。
昔…と言っても30年まえの1977年までは、果実が色づいて、鳥に食われて、そしてフンといっしょに落とされるタイプのタネを播くときには、鳥の腹のなかで胃壁で削られたり、胃酸で侵されたりしたのと同じようにしなくては発芽しない、と教えられていて、タネの殻をヤスリで削ったり、希塩酸などに浸けたりして播いたものでした。
中央公論社が発行していた「自然」1977年10月号に、そんなことを書きながら、鳥が木の実を飲みこんでタネを排泄するまでの、3分か5分くらいのあいだに、どれほど削られたり胃酸に侵されたりするのだろうかと疑問がわいてきて、その後いろいろと調べてみました。
鳥の腹のなかを通ったタネも、通らなかったタネも同じでした。鳥のフンから採集したタネには、胃壁で削られたり、胃酸で侵されたりした痕跡は見られませんでした。しかし、タネを果皮や果肉につつまれたまま播くと、そのタネは発芽しないことが多いようです。果皮や果肉にはタネの発芽を抑える働きがあるからだと思います。
鳥に飲みこまれて空の旅をするあいだに、果皮や果肉を取り除いてもらって、そしてフンといっしょに落とされたタネが発芽する、というしくみになっているようですが、この発芽のしくみは、タネが親植物から離れたところへ運ばれなくては、芽ばえることができないということにもなるわけで、植物の生命のすばらしい知恵、さらには、タネを送り出す母親の愛といったものさえ感じますね。