Rainbow Loom を発明したChoon Ng 氏特別インタビュー01

先日、日本ホビー賞を受賞した手芸玩具『レインボールーム』。そのキットを作り、米国レインボールーム社社長でもあるChoon Ng(チューン ン)氏に開発の裏話をきいてみました。

世界中でレインボールームが愛されている秘密

取材・文/林 みき
写真/清水 紘子
東京ホビーショーに来日した、Choon ご夫妻

―― 今や世界中で人気のレインボールームですが、発売当初ここまで人気が出ると思っていましたか?

全く思っていなかったですね、なんか魔法みたいだって感じていますよ。もともとレインボールームは娘たちと楽しむために作ったのですが、私たちの家庭の中で誕生したものが今や何万軒という家庭にあり、その楽しみを世界中の人々とシェアする形となって…もう本当に想像をはるかに超える状態となっています。

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―― レインボールームを作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょう?

全てのはじまりは娘たちが小さなヘアゴムでブレスレットを編んでいたことなんですよ。レインボールームでいう『シングルチェーン』を指で編む方法を妻から教わり、娘たちが編んでいたんです。仕事を終えて帰宅してから娘たちと遊んだり、一緒に過ごす時間を大切にしていたのですが、娘たちが成長するにしたがってハグとかキスをすると『やめて!』と言われるようになってしまって(苦笑)。2010 年当時、9 歳と12 歳だった娘たちと仲良くしたいと思い、一緒にブレスレットを編みはじめたものの、私の太い指ではうまく編むことができなくて。そこで編み機を作れないかなと考えはじめたんです。

―― Choon Ng さんは元々ハンドクラフトとかに興味があったのですか?

それまでは全くなかったんですよ、職業もエンジニアでしたし。ただ何色もの絵の具を使ってカラフルな絵を描くことは好きだったので、これは何色もの輪ゴムを使ってひとつのものを編み上げるレインボールームとつながる部分かもしれないですね。もともと日産にエンジニアとして勤めていて、このレインボールームが初めての本職以外のプロジェクトとなったのですが『何かすごいことをしよう!』なんて気持ちはは全くなかったんですよ。

―― 今や一大プロジェクトとなっているのに!

レインボールームが完成しても、そんなすぐ人気にはなりませんでしたからね。最初のステップというか、そもそもの夢は妻が自宅でフレキシブルに働けるよう、小さなホーム・ビジネスを始めることでした。でも販売をはじめて1 年くらい経った頃から、レインボールームに興味を持った小売店の方々から販売したいと声をいただいて。私たちとしては『もちろん、どうぞどうぞ』といった感じだったのですが、それからものすごい数が売れるようになったんです。当初は輪ゴムも自宅で手作業で袋詰めしていたのですが、そのペースでは売れ行きに追いつかなくなってしまって…その頃は、徹夜で梱包作業をしていました(笑)。そこで発送作業だけに私たちが集中できるように、中国の工場で生産をはじめることを決めたんです。

―― ところでレインボールームの『レインボー』の由来は何なのでしょう?

実は発売当初、商品名は『レインボールーム』ではなく『TwistzBandz(トウィストバンド)』でした。人気が出始めた頃に商標登録をしようと知人にリサーチを依頼したところ、同名のプラスチック製ヘアバンドを発売している会社があることが分かって。つづりは違っていたのですが響きが同じだったこともあり、名前を変えることをアドバイスされたんです。そこで私の弟と彼の娘たちに相談したところ、娘さんたちに『レインボーは?』と言われて。弟に『レインボールームって分かりやすい名前だと思うんだけど、どう?』と提案された瞬間、すごく良い名前だと感じたんですよ。どんな子どももレインボー(=虹)が好きですし、たくさんの色でひとつの形をなしている虹はレインボールームの象徴になるなと思って。これがきっかけとなって『レインボールーム』という名前が生まれました、2011 年の秋頃の話ですね。

―― なるほど、そうだったのですね。レインボールームの開発にあたって、一番苦労したことは何でしたか?

もう何もかもが大変でした(笑)。ハンドクラフト業界での経験もなかったですし、マーケティングにセールス…もう全てが初めて体験することで、あらゆることがチャレンジでした。でも一番苦労したのはお金でしたね、1 万ドルの資金だけで始めたので。ビジネスをはじめるにあたって1 万ドルというのはかなり小額ですし、投資できるお金もなかったので、資金を獲得することとキャッシュフローを確立させるのには、かなり時間がかかりました。

―― 編み機の構造とか、クリエイティブな面では苦労なさらなかったのですか?

エンジニアとして勤めていた日産の社風は『どんなときでも一番良い、最高のものをつくる』というもので。レインボールームを開発しているときもこの気持ちを忘れずに、常にデザインを改良しつづけていました。プロトタイプの最終型ができるまでの約6 ヶ月間、28 回近くの改良を重ね、自分でも最終型として納得のできる形にしてから生産に入りました。ここまで改良を重ねたのは、もしレインボールームが人気になって模造品をつくるような人が現れたとしても、レインボールームが一番良いものであって欲しいという気持ちが私の中にあったからで。この『どんなときでも一番良い、最高のものをつくる』という気持ちは、とても大切なことだと私は思っていますね。

日本のルーマー Yumi Loom さん作のジャケットと
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―― レインボールームの人気がどのように広がっていったのか知りたいのですが、アメリカではどのような経緯を経て人気が出たのでしょうか?

アメリカでは、ほとんどの子どもがパソコンやiPad といったデバイスを使ってインターネットに接続できる環境にあるのですが、インターネットが普及していたからこそレインボールームは短期間でここまで人気となったと私は考えていて。当初、レインボールームは子どもにとって難しすぎるのではないかという心配もあったんですよ、『難しすぎて子どもが興味を持ちませんよ』と言う小売店の方もいましたし。あと小売店での販売がはじまったとき、いくつかの店舗はただレインボールームを棚に置くだけで、せっかくお客さんに手に取ってもらえる状態にあるのに、どうやって使って遊ぶものなのかを伝えられなかったんです。これは問題だと感じて、どうにかして解決できないかと考えたとき、お金をかけずにできるのはYouTube に遊び方を紹介するビデオをアップすることだなと思って。でも試しに私自身が登場するビデオを撮ったのですが、あまり良いものにならなくて(笑)。そこで娘たちに協力してもらえないかお願いしたんですよ。

―― だからレインボールームの公式動画には娘さんたちが登場しているんですね!

そうなんです(笑)。何種類か動画を撮ってYouTube にアップしてからしばらくすると、レインボールームを持っている子どもたちも私たちを真似て動画をアップしはじめてくれて。最初は『レインボールームを紹介してくれて、ありがたいな』くらいにしか捉えてなかったのですが、それから動画をアップする人がどんどん増えていったんですよ。後になって知ったのですが、再生回数の多い動画にはYouTube 側が広告を掲載するので、動画が人気になると投稿者は広告費としてお金を稼げるらしくて。そういったこともあってか、レベルの高いデザインの作品の作り方動画を投稿するアーティストやユーチューバーもどんどん増えていき、レインボールームの認知度が一気に高まったんですよ。これまでインターネットが普及するにつれて、子どもたちのオモチャやハンドクラフトに対する興味をネットゲームが奪っていくのを目の当たりにしていたのですがレインボールームはその逆で、インターネットがレインボールームを支えてくれているんですよ。このインターネットとの相性の良さがあったかららこそ、ここまで人気が広がったのだと思っています。

―― 海外にまで人気が広まったのも、このネットでの広がりが関係しているかもしれないですね。

そうですね。それとTOY OF THE YEAR といった賞を受賞したのも大きかったと思います。ちなみに、4つの賞をレインボールームは受賞したのですが、ひとつの製品が複数の賞を同時受賞するというのは、これまでの歴史の中で初めてのことだったそうです。この受賞は海外での展開の助けにとてもなりましたね。何せ『TOY OF THE YEAR を受賞しました』と伝えるだけで、すぐレインボールームが良いものだと分かってもらえますから。電話で営業をしたり、レインボールームがどんなものかを説明する手間が省けました(笑)。

―― でも、ここまで世界的に広がるなんて思ってもなかったですか?

もう、全く思ってなかったですよ。本当に私たちが気付かないところでアメリカ、南アメリカ、ヨーロッパ、アジア、イギリス…本当にあらゆる国でレインボールームが知られた存在になっていて。たくさんの著名人の方々や各国の王室の方々が、レインボールームで作ったアクセサリーを身につけてくださったのも驚きでした。それこそローマ教皇がレインボールームのブレスレットをされているのを見たときは、もう本当に『えぇっ?!』ってなりましたよ(笑)。

―― 世界中のたくさんの人に愛される存在となっていますよね、レインボールームは。

レインボールームで作られたものには、何かパーソナルなつながりが生まれると思うんですよ。決してお金で買えるものではなく、誰かの手によって作りあげられるものなので。そうやって作られたものは好きな人や大切な人への特別な贈り物になりえるし、愛情や気持ちも伝えてくれる。だからこそ、著名人の方々も誰かからプレゼントされたレインボールームのアクセサリーをつけているんだと思います。こういった状況はビジネス的な側面でレインボールームにとってもちろん良いことですが、何よりもレインボールームに愛情や気持ちを伝える力があることを教えてくれて、本当に素晴らしいことだなと感じていますね。

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