今から約50年前の1952年に書かれたブラッドベリの『いかずちの音』を原作に、今から約50年後の2055年の世界を、今の技術で映像化したという、成り立ち自体がタイムトリッピーな映画だからだろうか。未来の風景は今と共通点が多く、レトロな雰囲気さえ漂っていて、時間の平衡感覚を奇妙に揺すぶられてしまった。
ただ、ふと疑問が湧いた。「過去を変えた影響から気候が熱帯に変わったっていうけど、現状のままでも温暖化現象で地球全体は暑くなるんじゃなかったっけ?」
そこで、気象庁気象研究所気候研究部第4研究室(地球温暖化予測)室長の楠昌司理学博士のもとを訪ねた。
地球温暖化は長い目で見て考えるものなので、気象庁がまとめた「地球温暖化予測情報第6巻(2005)」では「2081年から2100年までの平均気温」と「1981年から2000年までの平均気温」の差で表されるが、日本の気温は1月が「ほぼ全国的に2℃以上上昇」となり、7月は「1℃~3℃上昇」と報告された。まあ温帯地域じゃなくなるかもしれないけど、流石に熱帯にまではならないのか……って、充分“劇変”じゃないですか!
ところで、以前から気になることがあった。こういう予測は、科学的にどうやって導き出されるのか?
その方法を楠博士に訊ねると「大気の運動はナビエ=ストークス方程式に支配されているので、基本的には、その式をスパコンで計算して予測します」とのこと。
平たく言えば、この方程式に初期条件を入れて計算すると、大気中のある1点の空気が次の瞬間どこにいて、どこに向かっているかがわかるのだという。この点を多く取れば多くとるほど、また、時間を短くすればするほど、より精度の高い予測ができるのである。ただ、当然計算すべき式も莫大になる。そこで活躍するのが、処理速度40TFLOPS、主記憶容量10TBという日本が世界に誇るスーパー・コンピュータ「地球シミュレータ」なのだ……って、つまり、スパコンで方程式を解きまくったら、100年後の温暖化も予測できちゃうんでしょ? 意外と簡単なんですね。
「大気を270km格子で分けると、点の数は東西に128、南北に64、それを上下40層に分けて、それぞれに風や気温、湿度といった初期条件を与えて計算します」
128×64×40……そう簡単でもなさそうですね。
「また、陸か海洋か海氷かによって、太陽からの熱を吸収したり反射したりと大気の温度も影響されますから、別々にシミュレートしなければなりません。特に海洋の影響は大きいので、海洋自体も経度は2.5度ずつ、緯度はエルニーニョと関係する赤道を細かくしながら2~0.5度で分けて、それぞれの点をシミュレートします」
なるほど、やっぱりかなり込み入っているんですね。
「さらに、雲の量は太陽光の反射を左右するし、陸では、土壌の温度や水分含有量も関係してきます」
さっきは「意外と簡単」なんて言ってゴメンナサイ。
「他にも、雨が植物の葉でどれくらい妨げられるかとか、葉の裏の気孔から出る水蒸気の影響はどうかとか、葉の上に雪が積もったらどうなるかとか。雪の年齢というのもありますよ。日が経つと雪って黒くなるでしょ? だから、あまり太陽光を反射しなく……」
か……簡単なんて言う奴は、私が許しませんよ!
「そう言えば、温暖化で100年後に海面が9~88cm上昇するという予測がありますが、理由をご存知ですか?」
え、南極の氷が溶けるからじゃないんですか?
「いいえ。温暖化で降雪量が増えて、南極大陸全体ではむしろ氷が少しですが増えるという予測もあります」
じゃあ、とてつもないシミュレーションの結果……。
「海水が熱で膨張するからですよ」
あ、意外とシンプルな理由で、なんだか嬉しいです。 |