今度の“ミッション・インポッシブル”では、スパイの私生活風景も出てくるのだが、当然、仕事の話は御法度。ゆえに主人公も婚約者の知人から仕事を訊ねられて「交通局勤務」と嘘をつく。さらに「どんな内容?」と問われると、高速道路で1台がブレーキを踏んだ際、その影響が波紋状に広がって起こす渋滞を例に挙げ、素人には理解不能なほど高度な分析に携わっている、と相手を煙に巻いてしまう。「交通はある意味生き物だ」なんて、流石に超一流のスパイ。うまいこと言う。
そういえば、科学技術の進んだ現在、交通渋滞の研究はどこまで発達しているのか?
調べてみると「まさに生き物!」と思わせられる最新渋滞予測システムがあった。
その名も「フェロモンモデルによる渋滞予測」。
国立情報学研究所の本位田真一教授を中心にデンソーアイティーラボラトリ、早稲田大学の共同研究として、2003年6月にスタートした産学連携プロジェクトだ。
ハチはカマキリなどの天敵に遭遇すると「ここは危険だ!」と体内から化学物質のフェロモンを出す。その直後、同じ場所を通りがかったハチは、残されたフェロモンの匂いを嗅ぐと「どうもこのあたりは危ないらしい」と察知して迂回し、未然に危機回避できる。やがて危険な対象物が去ると、別のハチのフェロモンが追加されることもなく、振りまかれたフェロモンは次第に蒸発し、やがては消え、また、安全な場所として認識される。
この「ハチ」を「車」に、「残留フェロモンの範囲と濃度」を「渋滞の範囲と程度」に置き換えて考案されたことから「フェロモンモデル」と命名された。
本位田教授が「車載センサと通信デバイスの普及・発達があって初めて実現可能になりました」と説明するように、フェロモンモデルでは、これまでにない渋滞状況の情報収集・伝達・予測法が採用されている。
情報収集は各車が独自に自動的に行う。車載センサで速度、ブレーキ回数、車間距離などの情報を収集し、各車でフェロモン(データ)化する。このフェロモン情報は、ワイヤレス・ランにより、センターを通さず、複数の車両間で直接交換される。その情報をカーナビで処理することで、各車は渋滞地域を把握するのである。
最大の特徴が「渋滞情報のフェロモンを気体とみなすこと」。気体は時間とともに拡散するので、交差点などではフェロモンも合流し、広範囲かつ高濃度のフェロモン地帯が形成される。各車のカーナビ上で気体の動きを計算することで、これから混むであろう地域の予測が可能となるのだ。
これまでの交通情報は、道路に設置されたセンサから情報をセンターに集め、統計的方法で渋滞を予測し、車に伝えてきた。ところが、フェロモンモデルは過去の莫大な統計的データとの照合が不要。情報が複数基地局を経由することもないので、情報のタイムラグは2分の1~3分の1に短縮。コンピュータで吉祥寺・三鷹地域のシミュレートし、その結果を評価したところ、「フェロモンモデルが予測する渋滞回避経路は、従来技術が割り出した経路よりも、目的地までの到達時間を約6%短縮、また複数の候補の中から最短経路を選ぶ確率を約15%も向上させました」と本位田教授は胸を張った。「将来は『狭い道はイヤ』とか『タクシーが嫌い』などのフェロモンも設定できますので、自分の好みの道を選べるようになります」……ということは、いつかは「小刻みなブレーキングと意味深な車間詰めで〈ちょい悪オヤジ〉フェロモンを放出するドライブテクニックを身につけよう!」なんてHow to 本が出るかも…………出ないか。 |