キノコの図鑑などには、このように乾いてまるまったときに、風に吹かれたりして転がると胞子が出ると書いてあります。しかし、転がしてみても胞子はほとんど出ませんでした。皮を固く閉じたツチグリは指ではじいても、ほとんど胞子が出ませんでした。
ツチグリは雨や雪に濡れると皮が開いて、胞子の入った袋が出てくるのだから、雨の日に胞子が散るはずだと思いついたのが1990年でした。そしてその年の秋に、水玉で胞子が出る姿に出あって、撮影も出来たのでした。胞子袋に小さな雨粒が当たっても胞子が出る姿に感激したものでした。
ツチグリの胞子袋のなかには、ものすごい量の胞子がつまっています。何億粒、あるいは兆の単位かも知れません。傘型のシイタケのようなキノコでも、胞子が出はじめたら一週間くらい休みなく出しつづけます。ものすごい胞子の量です。でも芽ばえて生長するのは、いったい何本でしょう。
水のなかで生活していた古生代の生き方を、現代もつづけているシダやコケ類も、キノコと同じように胞子で殖えるのですが、犠牲の多い、効率の悪い繁殖方法です。植物は、やがて種子というものを発明するのですが、植物史上革命的な大発明と言ってもいいと思います。