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タネの話 写真・文/埴沙萌(はにしゃぼう)

雨でカプセルをひらいて〜雨で旅だつタネ

 暖かな地方では、いまごろ野や山を歩いていると、日当たりのいい林縁などで、フデリンドウの花が咲いているのに出会えるんじゃないかと思います。草の芽ぶきのはじまった山の草むらでは、ハルリンドウの花が咲いているかも知れません。
 写真(1)は、ここ群馬県北部の雪降る里で5月に撮影したフデリンドウの花です。写真右下のは、6月に撮影した果実期の姿です。

 フデリンドウやハルリンドウの果実は、細長い筒型ですが、熟すと筒型の果実の先端が二つに裂けてタネを落とすと図鑑には書いてあります。その姿を見たくて、花が終わっても分かるように目印のラベルを立てておきました。果実の先端は、たしかに二つに裂けました。しかしタネがこぼれ落ちるほどには、ひらきませんでした。
 雨の日に撮影したのが、写真(2)です。フデリンドウの果実は、雨に濡れると大きくひらくのでした。そしてタネは、雨つぶに叩き出されたり流されたりして、旅だってゆきました。

 下の写真(3)は、マツバギク類の美晃(ビコウ)です。昔から暖かい地方の石垣などに植えているマツバギクに似た種類ですが、これは、1955年ごろに輸入された種類で、低温にもつよいので耐寒性マツバギクとも呼ばれて、雪降る里のここでも石垣で、写真のように花が咲いています。写真右下は、果実ですが、雨が降ると、写真(4)のようにひらいて、タネが流れ出て旅だってゆきます。

 マツバギク類は、南アフリカの沙漠地帯に生える多肉性の植物で、2000種類以上もありますが、どの種類もみな果実は雨が降ると、ひらいてタネを落とすしくみになっています。
 乾いた沙漠で、雨が降って土が濡れたときにタネを播くという、すばらしい知恵です。

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