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タネの話 写真・文/埴沙萌(はにしゃぼう)

水の流れに乗って〜ミズバショウの芽ばえ

 いまミズバショウの花ざかりです。雪どけのおそい尾瀬ヶ原や、東北地方の山地では5月中旬になると思います。写真(1)の白くて大きな花びらのようなのは花をまもる苞(ほう)です。花は、苞につつまれている多肉質の花穂の表面に列んでいます。花びらの無いオシベとメシベだけの小さな花です。蜜も無いのでしょう、チョウやミツバチなどが来ているのを見たことがありません。ミズバショウの花粉は風で散って行って、そして授精します。

 写真(2)は、花穂に列んでいた小さな花それぞれが結実して、大きくなった果穂です。タネをひとつだけ持った果実が、たくさん列んでいます。7月7日に撮影したものです。
 そして7月16日には、写真(3)のように、果穂がくずれてタネが出てきました。タネの旅だちです。写真では見えにくいと思いますが、茶色の小さな円板形のタネです。水に浮いて流されてゆきますが、流されながらすぐ芽ばえがはじまります。
 ミズバショウは、サトイモの仲間で単子葉植物です。芽ばえのときにはイネなどとおなじように、尖った筒型の子葉が1本だけ出てきます。写真(4)は、少し大きくなった芽ばえですが、ミズバショウの花が咲いていた池や沼に、8月ごろ行くとこんな芽ばえがいっぱい浮かんでいるのが見られます。

 流れながら芽ばえた苗は、沼の浅いところや岸辺に流れつくと、そこで根をのばして生長をはじめますが、なかには、辿りつけなくて水に浮かんだまま冬を迎える苗も、たくさんあります。
 そんな苗は、氷に閉ざされたり、雪に覆われたりして冬を越すのですが、気温がマイナス20℃になっても、氷の下や雪の下は、0℃かマイナス1℃くらいで温かです。雪の無いところでは冬を越せなくても、雪が積もるところでは冬を越せるわけで、このことが雪国の植物が豊富な大きな理由になっているようです。

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