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Gakken PRESENTS 大人の科学:製品版

からくりシリーズ

からくり段返り人形

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からくり人形とその歴史

からくり人形に魅せられた人々

江戸、からくりの時代

 からくり人形の指南書ともいえる細川半蔵作の機巧図彙には、「茶運び人形」はじめ9種の設計図、製作の手順が載っています。多くの図を駆使し、微に入り細に入り丁寧に解説しているこのような本は、当時、世界的に例がありませんでした。日本人の機械工学における先進性を証明しているとも言えます。  江戸時代は、機巧図彙に登場する人形のほか、「酒買い人形」や「人力飛行機」、「弓曳き童子」といった様々なからくり人形も製作されました。こういったことから江戸時代は日本人にとっての機械工学の発祥の時代「からくりの時代」と言うことができるでしょう。

 細川半蔵をはじめ、江戸時代からくり人形に関わったとされている人々が以下の地図のように全国にいました。彼らは創意工夫を重ね、日々奮闘していたようです。

江戸からくりの最高峰・弓曳童子の制作者「田中久重」

 のちに弓曳人形の制作者となる田中久重は、江戸時代末期に筑後国のべっこう細工を家業とする家の長男として生まれました。べっこう細工は、そのほとんどに金属細工がほどこしてあり、べっこう細工職人=金属細工にも長けた職人でもありました。後の精密機械の製作にも通じる金属細工の技術に、久重が幼い頃から接することができた点が、少なからず彼の進む道に影響を与えたと言えるでしょう。
 久重の子どもの頃のエピソードとして、硯箱に容易に開かない鍵を細工したという話が伝えられています。既にこの頃から、後に彼が「からくり儀右衛門」と呼ばれる資質を表していたのではないでしょうか。

 

 久重と「からくり人形」との出会いは、自宅近くの五穀神社の例祭だったと言われています。からくりの仕組みに魅せられた久重は、自らのからくりを考案・作成し、いつしかそのことが町人に知られるようになりました。彼が「からくり儀右衛門」と呼ばれるようになったのはこの頃からのようです。  久重が生まれた頃には細川半蔵の『機巧図彙』*といったからくりの教科書とも呼べる書が既に出版されていました。また庶民の娯楽として、からくり興行師が町々を渡り歩いている時期でもあります。このような日本独自のからくり人形に触れる機会が多い時代に久重が育ったことも、彼が後に「弓曳童子」などの高度なからくり人形を産み出すきっかけの1つとなったのでしょう。

 からくり人形の虜となった久重は、本来長男として継ぐべき家業のべっこう細工から遠のいてしまい、家業は久重の弟が継ぐことになりました。  家業を弟に任せた久重は、技術修行のため筑後を去り、からくり人形の技術の他、無尽灯や万年時計、後の蒸気船の開発にも関連する気砲といった技術を身に付けることとなりました。  晩年の久重は、日本初の蒸気船などの数々の開発に携わり、明治期に入ると、現在の「東芝」の前身となる田中製造所を設立しました。

 からくり人形に魅せられた「からくり儀右衛門」は、からくりの技術を追求するにつれ、様々な興味惹かれる技術と出会うことになりました。その結果、元来の探究心に豊富な技術力が加わり、からくり師としての才のみならず、日本の近代科学技術の発展に大きく貢献した人物になったと言えるのではないでしょうか。

参考文献:「からくり儀右衛門~東芝創立者田中久重とその時代~」(ダイヤモンド社)

現代のからくり師「九代玉屋庄兵衛」

 江戸時代の職人の技を今に伝える現代のからくり師が、今作の監修者でもある九代玉屋庄兵衛氏です。
 田中久重作の「弓曳童子」は、動力に真鍮製のぜんまいを用い、人形の動きは数枚のカムに連動する糸によって巧みに制御されているとても複雑なものです。この機巧をそのまま使うと、一般の方には作成が困難な高レベル高価格のキットになってしまいます。一般の方に作っていただける範囲で再現するために、からくり人形を知り尽くしている九代玉屋庄兵衛氏に監修をお願いしました。

 

 本物のもつ複雑な機巧や動きを残しつつ簡単な機構や調整にするには、単に素材を代えたり簡略化するだけでは再現できません。現存するからくり人形の修理や新作の開発に常に携わる九代玉屋庄兵衛氏の技術が、現代にからくり人形の素晴らしさを伝えていると言えるでしょう。

   

日本最古の機械工学書「機巧図彙(からくりずい)」

意外に古い「からくり人形」の歴史

「からくり人形」は、江戸時代のものというイメージが強いですが、歴史は意外に古く、すでに平安時代末期の「今昔物語」に記述を見ることができます。また、日本には古くから木偶師(傀儡師)と呼ばれるあやつり人形師がおり、大道芸の一種、時によっては神事として人形を使う技と技術がありました。これに、 16世紀に入ってきた西洋の時計技術から生まれた和時計の技術が組み込まれ、「からくり人形(自動人形)」として、江戸時代に昇華したと考えられています。

「機巧図彙(からくりずい)」とは

現存する唯一のからくり人形指南書にして日本最古の機械工学書「機巧図彙」。作者は土佐にこの人ありと言われた「からくり半蔵」こと細川半蔵頼直でした。機巧図彙には,当時秘伝とも言えるからくり製作のノウハウが詳細に記述されています。「茶運び人形」以外にもいろいろなからくりの設計図、製作の手順が載っており、多くの図を駆使し、丁寧に解説しています。このような本は、当時は世界的にも例がなく、日本人の機械工学における先進性を証明しているとも言えます。

段返り人形の仕組み目次と茶運び人形闘鶏の仕組み品玉人形の仕組み鼓笛児童の仕組み

「機巧図彙(からくりずい)」の精神

「機巧図彙」の序文には以下のように記されています。

「夫奇器を製するの要は 多く見て 心に記憶し 物に触て機転を用ゆるを学ぶ。(中略)此書の如き 実に児戯に等しけれども 見る人の斟酌に依ては 起見生心の一助とも成なんかし。(機械を作り出すために大事な点は、多くの物を見て心にとどめ、また実際に物を触って確かめ、ヒントを得ることだ。この本にのっていることは、子供の遊びにすぎないかもしれないが、見る人の心構えによっては、そこから何かを得、発明のきっかけにもなるはずだ。)」

 江戸時代、科学技術者としての名声を上げながら、あえて玩具のごときからくりの技術に着目した精神はこの一文に要約されているといえるでしょう。例え玩具であっても、技術者として何か学びとろうとする意欲と目があれば、偉大な発見、発明につながることを、半蔵は喝破していました。その技術者としての確かな目は、時代を越えて、「モノ作り」の本質を見通しているといえるのではないでしょうか。

からくり人形の動きを動画で観る
横からの動き(ロング)
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