特集記事一覧へ戻る

特集記事

特集:菊池教授のテルミン原理詳解 マガジン本誌でテルミンのしくみについて、初心者にもわかりやすく解説してくださった菊池誠先生が、少々レベルは高くなるものの、より詳しい解説をしていただきました。菊池先生のテルミンへの愛情とこだわりが詰まった解説をお読みください。

文/大阪大学サイバーメディアセンター教授 菊池誠 イラスト/スズキトモコ

 『大人の科学マガジン』本誌では、テルミンの原理を非常に簡単に説明しました。この小文では、ふたつの高周波から可聴域の音を取り出す部分について、もう少し詳しく説明します。三角関数を使った式が出てきますが、式の内容はなるべくグラフでもお見せしますので、読み飛ばしていただいてもかまいません。簡単に見ていきましょう。その前に準備をしておきます。

1.いろいろな回路

 市場に出回っているテルミンにはいろいろな回路のものがあります。ふたつの高周波発信器を使って高周波の電気信号を発生させ、その「差」の周波数を音として取り出す、という基本的な考え方はどれも同じですが、その取り出し方に違いがあります。ここでは、代表的な回路として、以下の三つを挙げておきましょう。

(1)高周波の和を非線形回路に通して差の周波数を作り、ローパスフィルターで取り出す。古典的なテルミンや学研テルミンではこれを使っています。おそらく製品の種類としてはこの方式のものがもっとも多いのではないでしょうか

(2)高周波の和を作り、ラジオと同じ検波回路によって差の周波数をとりだす。世界でもっとも普及しており、事実上テルミンのスタンダードであるMoog 社のEtherwave はこの方式です。出回っている台数で言えば最も多いのがこの方式ということになります(もっとも、今後は学研テルミンが台数最大になるのでしょうが)

(3)高周波の積を作り、ローパスフィルターで差の周波数をとりだす。PAiA社のTheremax というキットがこの方式を採用しています

 もっとも、検波回路は非線形回路の一種とみなせますし、高周波の和を非線形回路に通して得られる波には高周波の積が含まれるので、この分け方が原理の上で本質的なものというわけではありません。以下ではこれらを簡単に見ていきましょう。その前に準備をしておきます。

BACK1  2  3  4  5  6NEXT

特集記事一覧へ戻る このページのトップへ