材料探しには苦労した。強い光源、投影に適したレンズを手に入れたいが、大学生の身分で予算も少ない。コストはできるだけ減らす方針で、試行錯誤の末、100円ショップで売っている双眼鏡のレンズを何枚か重ねて完成させた。
suzukazeを作ってみて、コンピュータで計算されて変換されたデジタル映像とは違う、光の反射だけを利用してダイレクトに映し出されるアナログな映像のリアリティに気づいたという。
suzukazeを見たとき、最初に誰もが不思議に思うのが、吹きかけた息だけに反応するということだろう。空気の振動を拾うということは、実は音を拾っているということである。やはり、最初のうちは手を叩く音にも反応していたという。原理的には、息を吹くフーという波長と声の波長は違っていて、コンピューターにノイズ系の振動だけを拾うというプログラムをすることで声の音と風の音を区別させているのだという。そして、プログラムして実験しての繰り返しで、精度を高めていったそうだ。
「僕は作品に余計なものをあんまり入れたくないんです。だからスイッチもつけずに、suzukazeの向きを立てることで、パッと映像が出るというのは驚きの要素になると思って、こういう仕様になりました。suzukazeのイメージは積み木なんです。一個だけでなく何個も積んでいくことで、ちょっと角度を動かしたときの空間のズレや、像と像を重ねたときの色合いなどが面白いと思います」