2009年に発売された『大人の科学マガジン』に掲載されると同時に、まんがニュースサイトなどで紹介され、ネット上で大きな話題を呼んだのが、新沢先生がまんがを担当した『モテる・モテないのひみつ』だ。
新沢先生の代表作『ハイスクール奇面組』の登場人物・出瀬潔によく似たキャラクターを主役に、恋愛において女性が男性を選ぶときにどんなことを基準にしているのか、生物学的な視点から解説した。
そして、この作品以降、「大人のひみつシリーズ」は、「懐かしのキャラによる学習まんが」というスタイルが多くなった。じつは、このきっかけは新沢先生にあったのだ。新沢先生といえば読者には『奇面組』のイメージがある。そこで『奇面組』のキャラを主役にしてはどうかと提案があり、好評だったので、以後の方向が決まったのだ。
「『奇面組』のキャラなら潔(恋愛エピソードが多い)がこの話に向くかなと。でも、そのまま潔を使いたくなかった…。それで髪型を変えたんです」
新沢先生は“キャラクター製造機”と渾名されたほど、数多くのキャラを生み出した。そのひとりひとりへ強い思い入れがあり、『モテる・モテないのひみつ』は別のまんがであるがゆえ、「潔のようで潔でない」キャラとしたのだ。
「ただ、この作品の中で、『奇面組』の豪くんや千絵ちゃんたちを描きました」
本作中、モブ的に『奇面組』のなかで恋愛関係にあったキャラたちが、デートをしていたり、そのカップルの間に子どもがいたりという場面が描かれている。これは、『奇面組』の作品の時間がそのまま流れていたら、こうなっていたかもという読者サービスと同時に、新沢先生の「キャラが幸せになっていてほしい」という思いの表現でもある。
なお、本作の掲載後の反響の大きさから、『モテる・モテないのひみつ』を第1話として位置づけ、その続きを執筆して「恋愛の科学」を扱う1冊の本にするという企画も、新沢先生と編集部の間で進められていた。だがーー
「企画書を見たら、他の『奇面組』のキャラも出すことになっていて…また別のキャラも使っちゃうのか、と。こういうのは、潔ひとりでいいよ…と思って」
そうした新沢先生の考えと、それを尊重したいという編集部の判断もあり、幻の企画となったのだ。
ところで、『からだのひみつ』の原作は、シナリオではなくネーム形式(コマを割ったもの)で、それを漫画家がアレンジする形で執筆されていた。学習まんが・原作付きのまんがが初めてだった新沢先生はどう思ったのだろう。
「原作でどんな絵が入るかとか、台詞はもう初めから決まったものでしたよね。その状態で頼まれたから、これなら学習まんがが初めてでも、できるかもと。という反面、正直、面倒くさいなと思ったし、実際、面倒くさかった(笑)」
やはり学習まんがは、説明のための台詞が多くなりがちで、また、掲載誌だった『大人の科学マガジン』は版型が大きいこともあり、コマも多いという特徴もあった。これは描き手としては、やっかいだったかもしれない。さらにーー
「いつもと本の開きが逆というのもやりにくかった」
というのも、『大人の科学マガジン』は左開きで台詞は横書き。それを単行本化の際に、右開きで台詞を縦書きに、絵を逆版に変更しているのだ。
「やっぱりまんがはこの(単行本に掲載された右開き)ほうがいいですね」
これまで右開きで描いてきた新沢先生には、左開きのまんがは、なかなか描きにくかったようだ。
「だから、次に頼まれても、もうやりたいとは思わないですね、学習まんがは(笑)」
最後に、新沢先生に今後の新作の予定や新作の構想をうかがったところーー
「以前は連載途中の体調不良で終わってしまった『ぼくはしたたか君』の続編を描きたいと思っていましたが、現時点ではとくにないです(笑)」
新沢先生の新作を気長に待ちたい。
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