次はやっぱりアンプ!
2006年に「大人の科学製品版」として発売した「真空管ラジオ」「真空管ラジオVer.2」に続く真空管シリーズの第三弾は「真空管アンプ」です。
お客様から寄せられた購買者はがきでは、真空管シリーズの次回作として第2位におされていたのが、この真空管アンプでした。ちなみに、1位はスーパーヘテロダイン方式真空管ラジオ、3位は真空管FMラジオでした。そして、市場調査を経て、正式決定のはこびとなりました。我々開発者も「いつかは手がけてみたい」と思っていた商品です。
一般に「真空管アンプ」というと「高級」のイメージがあります。十数万、あるいは数十万といった高額な機器もめずらしくありません。「音質ではそれらに勝てないまでも、もっと安価で気軽に真空管の音を楽しめるものは作れないだろうか?」ずっと考えていました。iPodを初めとする外部音響機器で気軽に音楽を楽しめる昨今、真空管を知らない若い世代にもそのアナログ独特の音を知って欲しい、とも思っていました。第一弾として「真空管ラジオ」を開発する過程で、比較的安価な電池式真空管が見つかり、商品化への道が開けました。
なぜ電池管なのか?
1920年代はじめ、真空管は電池管しかありませんでした。当時アメリカではまだ一般家庭に電気(交流)が供給されておらず、「電気スタンド」と呼ばれる、今で言うガソリンスタンドのようなところで、電気を蓄電池(=バッテリー)に充電してもらい、それを使っていました。
「自ら手作りすることで原理が理解できる」が「大人の科学」のモットーです。その点で、交流電源に比べて感電事故の少ない電池管は、我々が使用できる唯一の真空管でもありました。手作りの過程でお客様に「万が一」があってはならないからです。
同時に電池管には性能的な限界があります。その縛りの中でどこまで最大のパフォーマンスを引き出せるか? 「電池管でできる最高の性能をめざそう」我々の挑戦が始まりました。
二転、三転した真空管の入手
真空管は、30年前に中国で生産され、倉庫に眠っていたものを確保しています。当初、第一弾の「真空管ラジオ」のために「1K2」「1B2」「2P2(または354)」の3種類の真空管を見つけ出しました。「1B2」「2P2」についてはそれぞれ在庫が1万本しかない、ということで1万セットの限定品として生産しました。おかげさまで短期間で在庫がなくなり、逆に「何とかして増産できないのか」というお客様の声が日増しに強くなっていきました。
あらためて調査を進めてみると、新たに「1A2」「2P3」の入手が可能だということがわかりました。「2P3」は出力管としての性能が優れているため、これを利用した音量アップに成功しました。また、音量音声増幅実験といった新たな機能を付加することもできました。問題は「1A2」です。
「1A2」は「コンバーター管」と呼ばれ、「スーパーヘテロダイン」方式ラジオの中間周波数変換用に作られた真空管。「スーパーヘテロダイン」方式とは、電気信号を単純に増幅するのでなく、いったん増幅しやすい中間周波数に変換してから増幅する方法で、高感度で雑音が少ないのが特徴です。
残念ながら、「1A2」では、前と同じ回路が使えません。しかたなく、回路を設計し直し、「1K2」「1A2」「2P3」の組み合わせで「真空管ラジオVer2」を作りました。
なぜか現れた「1B2」
「真空管ラジオVer2」を発売した後、驚きの情報が飛び込んできました。なかったはずの「1B2」が見つかったのです。情報不足、調査不足と指弾されればそれまでですが、逆にこれで出力管「2P3」と組み合わせて真空管アンプ商品化の可能性が出てきました。「1B2」「2P3」はアンプには最適の組み合わせなのです。結果として今回の真空管アンプでは、これらを各2本使用、計4本の真空管を使うということになりました。
独自に開発したオリジナル出力トランス
真空管の構成が決まったところで次に頭を悩ませたのが出力トランスです。数種類を試作しましたが、どうしても歪率(入力信号と出力信号の波形が相似形にならない場合、「歪む」と表現する。どれくらい歪んでいるかを表す数値)が改善できません。
結局、変則「EE」コアタイプ(コア材の形状がアルファベットの「EE」に似ているところから付けられた名称)となりました。さらにコア材を十分吟味し、積厚も大きめにして独自の出力トランスを作りました。
真空管のパワーを生かしたスピーカーユニット
真空管アンプの少ないパワーを最大限引き出すには、スピーカーユニットも極めて重要な部品です。選定にも慎重を期しました。
とりあえず、8種類のスピーカーを取り寄せ、コーン、コイル、磁石などの組み合わせを、効率と周波数特性をポイントにおいて調べました。結局、40φのマイラーコーン(プラスチックでできたコーン)、ネオジム級の磁石の組み合わせとなりました。
スピーカーユニット前方には空気室をもうけました。こうするとエアサスペンション効果(空気をいったんしぼってから一気に噴出させることで、物理的に音量・音質を変化させる効果のこと)による音量アップ、音質の改善が期待できるからです。
スピーカーホーンの形は、電池管の少ないパワーを最大限生かすために、古典的な「セルラ方式(ひとつのホーンを小部屋で仕切ることでひとつひとつの高域がはっきり出る)」を採用。もともとこの方式は真空管アンプの中高域用に開発されたものですが、フルレンジスピーカーを使っているので低域までカバーできます。昨今の大馬力対応スピーカーとは違った味が楽しめます。 |