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Gakken PRESENTS 大人の科学:製品版

その他の実験

エジソン式コップ蓄音機

製品詳細 実験ハイライト 開発秘話 偉大な発明品、誕生とその軌跡 実験についてのご質問

開発秘話~開発者のこぼれ話~

湯本 博文氏

湯本 博文

科学ソフト開発編集部 企画開発室室長
大人の科学総合プロデューサー
学研 科学創造研究所所長

1977年学研入社。「科学」の編集長として画期的な付録を作り続け、今や「学研のエジソン」と呼ばれる。テレビ出演多数。1999年より現職。

金子 茂氏

金子 茂

科学学習編集部
企画開発室
大人の科学編集長

1982年学研入社。「科学」「学習」編集長として数々の付録開発に当たり、数多くのヒット企画を生む。2000年より現職。

蓄音機は針が命

「コップに録音するというこの発想は、どのようにして生まれたんですか?」

湯本:もともとは、私が5年の科学の編集長をしてるときに、付録にどうしても蓄音機をつけたくて、いろいろ実験をはじめたのがきっかけだったんですよ。エジソンの蓄音機というと、シリンダーに録音するわけですから、それに近い形として、割と自然にコップに行き当たりました。それに、このコップは、当時から実験教室なんかでよく使ってたものでして、身近にいくらでもあったんです。

「でも、それですぐ録音に成功したんですか?」

湯本:いえ、全然(笑)。3年間もチャレンジしたんですが、このときは結局うまくいかずに挫折したんです。

「それがどういうきっかけで復活したんですか??」

湯本:1996年に、ソニーさんがデジタルドリームキッズという名前で、実験教室などを開始されたんですね。実はその企画をお手伝いしてまして、そのときのテーマの中に「エジソン生誕150年記念」というのがあったんですね。それを見たときに、ついムラムラきちゃいまして(笑)、そのときの企画書に、まだ成功してない蓄音機の企画を書いちゃったんですよ。編集者って、企画を何とか面白く見せようという性(さが)というか、サービス精神があるじゃないですか。そうしたら、それがものすごく受けまして・・・。

「で、作らざるを得なくなったということですか」

湯本:まさにそうでした。でも、それからが大変でしたねえ。

「そりゃ、そうですね(笑)。でも開発はたいへんだったでしょう?」

湯本:今思い出しても冷や汗ものですね。なんといっても一番苦労したのは針なんですよ。

「針の難しさってどんなことなんでしょうか」

湯本:一般的に、蓄音機の針は、太い方が大きな音が出るんですね。ですから、最初は太目の針ばかり探していたんです。それで、じゅうたん・カーペット針という、わりと太目の針を見つけて、これで実験したところ、一発でうまくいったんです。

割と簡単に良い針が見つかったんですね

湯本:ところが、これが地獄の始まりでして、このときうまくいったのが、本当にたまたまだったんですね。その後は、同じじゅうたん・カーペット針を買ってきてやったのに、次からは全然うまくいかない。どうしてかと思って、針先を顕微鏡で見てみたんですよ。すると、この針にはものすごく個体差があることがわかったんです。とがってたり、丸くなってたりのばらつきがひどいんですね。もちろん顕微鏡レベルでの話なんですが。

▲蓄音機の針先。針選びには何種類もの針で録音を繰り返した

「そんな顕微鏡レベルの針の違いが性能を左右するんですか」

湯本:そういうことがやっとわかってきたんですね。それからは、あらゆる針を集めて、顕微鏡で針先をのぞくなんてことをしばらくやってました。

「それでちょうど良い針は?」

湯本:結局このときは見つかりませんでした。針は、先が丸すぎるとまず音が出ません。反対にとがりすぎていても音質が悪くて、なかなか聞けるものにならないんです。レザー針というのがあって、これはうまく音が出たので、「いけるかな」と思ったんですが、すぐに針先が丸くなってしまい耐久性がないので、あきらめました。

「先が丸くてもだめ、とがりすぎていてもダメとは難しいですね」

湯本:実際針先にあんなに個性があるとは知りませんでした。針によって本当に千差万別です。で、ある日会社で散々実験して、うまくいかずに夜中に家に帰ったんですが、どうしても悔しくて、家で女房の裁縫箱にあった木綿針を使って、もう一度だけ実験したんですよ。今まで木綿針を使わなかったのは、細い針は音量が小さいので、使い物にならないという固定観念があったからなんですが、でも、もう他に試すものがなくなって、まあこれでもやってみるか、と思って、深夜に実験をはじめたわけです。深夜ですから家族も寝てますし、あまり大きな声で録音するわけにいかないので、小声でやってみたのですが、確かに音は小さいがちゃんと録音ができたんですよ。それで、翌日会社にそれを持っていって実験を続けたんです。

「結局一番ありふれた木綿針が一番となったわけですね」

湯本:はい。そうなんですが、翌日会社でやったら、やはり音が小さくて、そのままでは使い物になりそうにないんです。そこで、もう針探しはやめて、小さな音を増幅する方法を考えることにしたんです。
 音を大きくするためには、細い針に太い針と同じような剛体を持たせればいいというのが頭でわかっていても、どうやればいいかがなかなかわからないんです。金属片に張ったり、いろいろと試行錯誤しているなかで、たまたま身近にあった真ちゅうのパイプに入れてみたらうまくいったんですね。それで、今のステンレスのチューブに入れるという方法が確立しました。
 針を固定する部品もいろいろと悩んだんですが、ホックの穴のあいてる方が、なんとピッタリだったんですね。これで、やっと針の問題が片付いたんです。

「当然他にも問題はあったわけですね?」

湯本:ご想像のとうりですね(笑)。それで、いくつか試作機を作ったら、それまでなかった音のビビりが起きたんですね。音がビビるというの、機械的な振動があって、これを針がひろうから生じるんですが、この原因が何だかさっぱりわからない。犯人が回転軸のボルトだというのがわかるまですごく時間がかかりました。

「なぜボルトがビビりの原因だったんですか?」

湯本:湯本: また顕微鏡レベルの話なんですが、試作機に使ったボルトのねじ山が傷だらけだったんですね。この傷が振動の原因だったんです。そのとき使っていたボルトは、ガラメッキというメッキがされていまして、これはザルのようなものの中で回転させながらメッキするという工程でできてているんですね。するとメッキの工程でねじ山とねじ山がぶつかって、傷がつく。もちろん、通常のボルトの機能としてはこんな顕微鏡レベルの傷なんて全然問題ないんですが、蓄音機には使えないんですよ。そんなことがわかったんで、ボルトをステンレスに変えました。これで、この問題はあっさり解決しましたね 。

▲試作機に声を録音する湯本氏

「アナログの奥は深いですねえ」

湯本:ホント、そうですね。ですから、このエジソンのキットも、作る人の調整によって、結構音の感じが変わったりするんですよ。また、使っているうちに針先が磨耗して、結構やわらかい音になったりします。スピーカー部分も、いろいろ変えたりもできますし、けっこうチューニングの楽しみがあるんですよ。

「これでほぼ完成ですね」

湯本:はい。これが1997年のことです。このとき東京の恵比寿で、マルチメディアフォーラムというデジタル系のイベントがあったんですが、このとき、なぜかアナログ代表ということでお声がかかりまして、「科学の付録」の講演をしたんですね。この講演で、出来上がった蓄音機をはじめて大勢の人の前で実演したんです。デジタル系のイベントですから、来場者はほとんどがコンピュータやマルチメディア関係の方だったはずなんですが、実演は大うけでして、終わったら本当に嵐のような拍手をいただきまして、本当にびっくりしました。その後の懇親会でも「もう一度やってみせてください」とか言われて次々に人がやってこられまして、人だかりになってしまいました。そのときは、皆さん「アナログって偉大だなあ!」とおっしゃってました。デジタル系の方だからこその感動もあったみたいですね。

「昨年売られたのは、このプロトタイプが元になったものなんですね」

金子:そうですね。このとき完成したものを元に、量産しました。量産の苦労はとんでもなかったですが・・。

「今のバージョンはだいぶ改良されたとか」

金子:はい。プロトタイプで、は録音と再生を切り替えるときに、いちいちスピーカーをはずしてセットをしないといけなかったんですが、今のものは、これがワンタッチで切り替えられるようになっています。

湯本:あと、インテリア性に配慮してほしいという意見も結構多かったので、色を塗ってみました。
 ぜひ、店頭でパッケージを手にとって見ていただき、実際に作ってみていただければと思います。

「ありがとうございました」

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