茨城大学工学部現役で唯一のほんまもんのロケットボーイ・前嶋くんは、若さに似ず徹頭徹尾慎重に作業を進めていた。100分の1グラムの計量にこだわる。ところが、前嶋くんの恩師・小林先生が結構アバウトなのだ。…と、金子にはそう見えたのだが、実際は違う。小林先生は要領が良かったのである。
よく混ぜた推進剤溶液の上に1枚の半紙をのせてから凸型紙で押さえ、扇風機の風を当て固める。乾けば平らな板状の固形燃料の完成だ。その近くでは火気厳禁である。湯本村長は別室に逃げ、緊張をほぐすためタバコを吸った。
過塩素酸アンモニウムを過塩素酸カリウムに変えて、あとは推進剤と同じ配合で導火線の材料を作る。同様に型紙に入れて乾燥させ、それを2ミリ幅のヒモ状に切る。
そしていよいよロケット本体の製作に取り掛かった。アルミ箔を貼ったケント紙の上に板状の固形燃料を乗せ、15ミリ径の丸棒を芯にして巻きつけていく。スポッと丸棒を抜くと、固形燃料・ケント紙・アルミ箔の言わばバームクーヘンである。
燃料は燃えると2000度のガスを噴き、ケント紙を一気に炭化させる。つまり固い炭になり、ロケット本体が燃えるのを防ぐ。と、ここまでは設計図通りに、全員が製作作業にいそしんだのであるが、その後のノズル、安定翼、ノーズコーン製作では、設計図から各員意識的に微妙にはずれ、個性を発揮し始めた。そのため、完成しつつあるロケットは実にバラエティー豊かというか、勝手気ままな形状になっていったのである。
学研創業60周年記念号の製作担当者・湯本村長は特にそのロケットのデザインにこだわり、メンバー中最長、そしてノズル径の小さなものを作った。ノズル径が小さければ小さいほど推進力は増す。が、燃料の燃えカスが詰まり爆発の危険性は大きくなる。大丈夫か? の声に、大丈夫! で押し切ってしまった。
午後8時過ぎ、全員のロケットが完成した。
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