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大人の科学実験村 第7回 手作りペンシルロケットで遠い空をめざせ!

あわや大事故!
何をしたんだ、金子助役!?

 結果として大事には至らず、緊張が解けそうになったとき、「長年この実験を何度もやってきましたが、この段階で爆発したなんて初めてです」と伊藤先生がつぶやいた。だから極めて稀なトラブルだったことになる。

本物のロケットと同じ薬品を調合する! えっ!?……………市販の…………接着剤が…………燃料?
1.薬品のほとんどは、学校関係者や専門業者しか購入できない。2.推進剤になる数種類の薬品を乳鉢ですりつぶす。3.接着剤に含まれる天然ゴムが燃料だ。重さを量りながら慎重に接着剤を混ぜる。4.燃料が接着剤なので、混ぜる段階で固まらないように溶剤を使う。5.ガラス棒でゆっくりと、まんべんなく混ぜる。6.半紙ではさんで乾燥させると、粘土くらいの硬さになる。半紙から切り出せば、推進剤の完成だ。

 過去6回の実験村の現場でトラブルの張本人になるのは、必ず金子か西脇だった。今回はどうも金子が要注意人物のようである。それを察したのか、金子助役はみんなからチビっと離れた場所に席を移し調合作業を再開した。

 何かホコリなどの有機物が乳鉢に混入したための爆発と推測される。指先に付いていた微量のボンドではなかろうかと伊藤先生は推測したが、西脇主任は助役のフケにちがいないと独断した。フケも正真正銘の有機物で、大量に混入すれば爆発の原因になるらしい。

 しかしなあ⋯金子助役は見事なハゲおやじである。フケの可能性は少ないと思われる。よって原因不明ウヤムヤのまま、1枚の半紙をのせた凹型紙に乳鉢内の混合物を移し、それに天然ゴム(ペーパーボンドを使用、これが燃料)、酢酸エチル(ゴムを溶かす)、硫黄(ゴムを固める)を加えた。そしてガラス棒で優しく慎重にまんべんなくかき混ぜる。

 茨城大学工学部現役で唯一のほんまもんのロケットボーイ・前嶋くんは、若さに似ず徹頭徹尾慎重に作業を進めていた。100分の1グラムの計量にこだわる。ところが、前嶋くんの恩師・小林先生が結構アバウトなのだ。…と、金子にはそう見えたのだが、実際は違う。小林先生は要領が良かったのである。

 よく混ぜた推進剤溶液の上に1枚の半紙をのせてから凸型紙で押さえ、扇風機の風を当て固める。乾けば平らな板状の固形燃料の完成だ。その近くでは火気厳禁である。湯本村長は別室に逃げ、緊張をほぐすためタバコを吸った。

 過塩素酸アンモニウムを過塩素酸カリウムに変えて、あとは推進剤と同じ配合で導火線の材料を作る。同様に型紙に入れて乾燥させ、それを2ミリ幅のヒモ状に切る。

 そしていよいよロケット本体の製作に取り掛かった。アルミ箔を貼ったケント紙の上に板状の固形燃料を乗せ、15ミリ径の丸棒を芯にして巻きつけていく。スポッと丸棒を抜くと、固形燃料・ケント紙・アルミ箔の言わばバームクーヘンである。

 燃料は燃えると2000度のガスを噴き、ケント紙を一気に炭化させる。つまり固い炭になり、ロケット本体が燃えるのを防ぐ。と、ここまでは設計図通りに、全員が製作作業にいそしんだのであるが、その後のノズル、安定翼、ノーズコーン製作では、設計図から各員意識的に微妙にはずれ、個性を発揮し始めた。そのため、完成しつつあるロケットは実にバラエティー豊かというか、勝手気ままな形状になっていったのである。

 学研創業60周年記念号の製作担当者・湯本村長は特にそのロケットのデザインにこだわり、メンバー中最長、そしてノズル径の小さなものを作った。ノズル径が小さければ小さいほど推進力は増す。が、燃料の燃えカスが詰まり爆発の危険性は大きくなる。大丈夫か? の声に、大丈夫! で押し切ってしまった。

 午後8時過ぎ、全員のロケットが完成した。

本物のロケットと同じ固体燃料

このロケットの推進剤には、過塩素酸アンモニウムという宇宙航空用の固体燃料ロケットに使われているものと同じ酸化剤が使われている。小さいながらも本物志向のロケットなのだ。

紙とアルミ箔をぐるぐる巻きにして機体を作る!
7.ロケット本体を作る。アルミ箔を貼ったケント紙で推進剤を包むように巻いていく。推進剤の重さが総重量の6割をしめるよう調整。8.マッチ棒の先で点火部を作る。9.火は導火線を伝って、マッチ棒の先に到達する。10.点火部にはふたの役目もあるので、しっかりはまるように作る。11.ロケット柄をプリントした紙を巻いて飾る。12.13.14.消しゴムを削ったノーズコーン。重さの加減に悩む。15.飛距離を大きく左右するノズルの大きさを考える。
完成! 理科室生まれのロケットは個性派ぞろい! 設計図は同じなのに、それぞれちがうロケットが並んだ。一番背の高いのが村長製作のもの。
設計図は同じなのに、それぞれちがうロケットが並んだ。一番背の高いのが村長製作のもの。

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