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発明発見シリーズ

真空管ラジオ

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開発秘話~開発者のこぼれ話~

湯本 博文氏

湯本 博文

科学ソフト開発編集部 企画開発室室長
大人の科学総合プロデューサー
学研 科学創造研究所所長

1977年学研入社。「科学」の編集長として画期的な付録を作り続け、今や「学研のエジソン」と呼ばれる。テレビ出演多数。1999年より現職。

金子 茂氏

金子 茂

科学学習編集部
企画開発室
大人の科学編集長

1982年学研入社。「科学」「学習」編集長として数々の付録開発に当たり、数多くのヒット企画を生む。2000年より現職。

念願の真空管を使った往年のラジオ手作りキットを商品化

※この開発秘話は、すでに完売した真空管ラジオVer.1のときのものです。

「真空管を使った、手作りラジオキットが発売になりましたね。待ち焦がれた方も多いのではないでしょうか?」

湯本: おかげ様で、発売が決まってから多くの反響をいただきました。鉱石ラジオを商品化して以来、次は「真空管」を使ったラジオを作ってみたいと思っておりましたし、やはり科学工作の世界では基本といえるアイテム、ラジオは押さえておきたかったものですから。そう言えば高級オーディオの世界でも真空管アンプが見直されているそうですね。

「では最初に、開発にあたり苦労された点があれば教えてください」

金子: 真空管の調達が大変でした。現在製造されている真空管は、基本的に高級オーディオ用がほとんどであり、生産国も中国かロシアに限られているようです。さすがにこれを使うと相当な金額の商品になってしまいますし、専用のものを設計するほどのロットを販売することも難しいとのことでした。
 そんな中、いろいろと手を尽くして当たっているところ、中国に30年くらい前に軍用に使われていたそのものと、同等品の真空管のストックがあちこちにあるという話を聞きつけました。
 最初はそんな昔の真空管のデッドストックを使って、商品になるのか不安でした。しかし実際に取り寄せてみると、古い真空管とはいえ、きわめて安定性が高く、不良率も非常に低いことがわかりました。
 外見上ちょっと傷などがあるものが混じることがあるというデメリットはあるのですが、性能は申し分ありませんので、その点はレトロ感を味わっていただければと思います。

→ 真空管こぼれ話 その1

「今回の真空管ラジオは、限定品だそうですね?」

湯本: 限定1万台のみの製造とさせていただきました。調達できる真空管の数に限りがあるため、現時点では増産することが出来ない商品になってしまったことをあらかじめお断りさせていただきます。
そんな事もありまして、こだわり・自慢の企画をいくつか考えさせていただきました。
 最初に『バリコン』。いろいろな昔のラジオのバリコンを見ながら検討しましたが、その中で目に付いた、1920~30年代のアメリカ製ラジオでよく使われていた「ブック型」と呼ばれるバリコンを選びました。これは、蝶番でつながった2枚の板に金属板を乗せ、開いた角度を変える事で距離を変化させ、静電容量を調整するというものです。
 最近では全く見なくなった形式のバリコンなのですが、何よりも見た目も面白いし、かつ原理が直感的にわかるという利点もあり、大人の科学としてふさわしい機構だと思ったのです。

▲大人の科学「真空管ラジオ」のブック型バリコン

金子: 次のこだわり・自慢のパーツは『リッツ線』をアンテナに使用しました。通常電波は電線の表面を走りますので、アンテナ線の表面積を広げることにより電波をより捕まえやすくなります。そこで、細い銅線を束ねて作られているリッツ線を使用することで、電線の表面積が通常のエナメル線より大きくなり、同じ回数巻いたエナメル線より感度の高いアンテナを作ることができるためです。
 私たちが中国で入手したのは、細い銅線を多数束ねたもので、しかも皮膜がシルク製でした。恐らく同じ電線は秋葉原で探してもまず入手できないのではないかと思います。中国でこれを見つけたときは本当にうれしかったことを思い出します。それに、シルク巻きはアンテナ部分が非常に格調高く見え、インテリアとしてもなかなかのものです。

湯本: 3つ目は、オリジナルの『ピン・ストレートナー』を付属しました。
ピン・ストレートナーは、真空管の足が曲がっていないかを確認するための、実に簡単なツールです。真空管を基板のソケットに挿す際に、足が少し曲がっているものを無理に差し込むと、足が折れてしまい真空管を台無しにしてしまうことがあります。それを防ぐために、まず真空管を箱から出したら、差し込む前にこのピン・ストレートナーを使って足の曲がりがないかをチェックするのが、昔の真空管マニアの儀式のようなものだったと聞いています。実は、私自身が製品チェックの際に真空管の足を折ってしまうことがありました。それを見ていたスタッフが、「そういえば、昔はこういうツールがあった」というのを思い出してくれたのがきっかけでした。調べてみると、今はほとんど入手不可能なツールらしく、ならばオリジナルのものを作ってしまえということになりました。

金子: ピン・ストレートナーにもブランドがあり、今アメリカRCA製のピン・ストレートナーを持っていると、マニアの間では相当な自慢になるそうです(写真参考)。今回私たちが作ったものには、学研マークを入れましたので、限定1万個の学研オリジナルピン・ストレートナーになりました。

▲学研オリジナル ピン・ストレートナー

▲昔のピン・ストレートナー(ラジオ工房 内尾悟氏所蔵)
※左は松下電器製、右はアメリカ製(メーカー不明)

「最後に、真空管ラジオの魅力を教えてください」

湯本: このラジオでAM放送を聞くと、非常に独特な、あの懐かしい柔らかい音がスピーカーから出てきます。そのため、現代の放送を聞いているにもかかわらず、大昔のラジオ放送の電波が遠い宇宙を旅して戻ってきて聞こえているような不思議な感覚にとらわれます。ちょっとノスタルジーにも浸れるこのラジオを、ぜひ皆様にも味わってみていただければと思います。また、60年ほど前のラジオに良く使われていた、再生検波式という回路を踏襲しているので、スピーカーから出るピー音(50歳以上の方には懐かしい「うなり音」)を確認しながら選局する、独特のチューニング方法で、レトロ感も味わっていただけると思います。

金子: 最後に予告です。今回の真空管ラジオは限定ではありますが、真空管そのものが見つかる可能性もあり、ご要望が高ければ、マイナーチェンジを施した「真空管ラジオversionII」にチャレンジするつもりです。

「楽しみですね。期待しています!ありがとうございました」」

真空管 こぼれ話 その1

 1976年に、当時ソビエトの最新鋭戦闘機ミグ25が函館空港に強行着陸した事件がありました。このとき、この戦闘機の一部回路に真空管が使われていて、当時は東側の技術が劣っている証拠と報道されていましたが、実はこの時期の真空管というのは、それまでの不具合を修正して作り上げられてきたものなので、安定度が非常に高いものだったのです。
また、これは余談ですが、真空管は構造上電磁波などでも誤動作することが少なかったので、むしろ軍事用には当時のトランジスタよりもいい面もあったということでした。

真空管 こぼれ話 その2

 今回使用した真空管は、1K21B2という種類と、2P2もしくは3S4のどちらかという3種類です。
1K21B22P2というのは、中国での表記で、それぞれアメリカ・日本の表記に直すと、1T41S53S4となります。
もともと、中国が西側の真空管をコピーして作っていたものらしく、全くの同等品です。
1K21B2は、全てが真空管表面にその印字がされているのですが、2P2の一部には、西側表記である3S4と印字されている真空管が混じっています。そのため、パッケージなどには敢えて2P2もしくは3S4という表記にしました。お求めいただいたパッケージにどちらの印字が入っているかはわからないので、このような表記にしてあります。

また、真空管の表面には、「北京」などの地名が印字されており、これもいくつかのバリエーションがあります。特に貴重なのは、○印の中に「軍」と印字されている真空管です。これは正真正銘、軍用に使われていた真空管です。もちろん軍用とそうでないものの性能差はありませんので、貴重かそうでないかというだけの違いですが、お求めいただいたキットにこの印字のある真空管が入っていれば、それは「ラッキー」だったと思っていただいて良いと思います。

▲「軍」印の真空管

▲「北京」印の真空管

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