「今回は大人の科学シリーズの中でも、すこし系統の違う『からくり人形』というジャンルにチャレンジされた訳ですが、江戸時代の技術を再現するというのは難しかったのはないですか?」
湯本:はい。当時の書物「機巧図彙」をもとに再現いたしました。難しいというより、まず、図面を見ながら、「なるほどこういう仕組みで動かしていたのか」と関心しきりでした。
「江戸時代の技術はそれほどすごいものだったのでしょうか?」
金子:いやぁ、「あの時代によくこういうことを考えたなあ」と思えるノウハウがぎっしり詰まっています。江戸時代にこれほど精巧なロボットを作った日本という国の技術は本当にすばらしい」と感動しました。
「当時の動力はどのようなものだったのでしょうか?」
金子::江戸時代はクジラの髭が使われていました。当時、クジラの髭は一般的なものでしたが、今ではめったに手に入らない高級品です。からくり人形に使用するにあたっては、パワーとバランスにすぐれた動力を生む、非常に適した素材だったようです。唯一の指南書「機巧図彙」でも、クジラの髭を使うよう、わざわざ指示しています。 |
▲組立完了した大江戸からくり人形 |
「ただクジラの髭は今回は使用していないのですね」
金子:今回のからくり人形の動力はゼンマイです。
「ゼンマイの動力は上手く作動したのでしょうか?」
金子:我々も、パワーとバランスを求め、いろいろな素材、巻き数、厚さのゼンマイを試してみました。弱すぎると、途中で止まってしまいますし、強すぎると歯車等がパワーに負けて暴走したりします。なかなかバランスのいいものがみつからず、苦労しました。しかし、動力部は全体の機構を決定する心臓部なので、慎重に選定しましたがほぼ満足のいくパワーとバランスが実現できたと思います。
湯本:板ばねの部分も苦労しました。これも本来ならクジラの髭を使う部位なのですが、今回は堅めのプラスチック素材(ポリアセタール)で代用しています。発進停止、方向変換、お辞儀機構、速度、すべてにかかわる重要な部品です。糸で各部位とつなぐのですが、最終調整はお客様にお願いする機構になっています。微妙なバランスを自分でカスタマイズする楽しさも残しておきたかったからです。
「そうですか。ではこのキットでほぼ当時の江戸時代の技術を体感できるわけですね 」
金子:はい。「からくり人形」こそ、日本のロボット技術の原点といえるのではないかという思いを強くしております。私は昭和28年の生まれで、日本の高度成長期を肌で体験した人間です。最近、不景気なニュースも多いのですが、こういう企画で、ぜひ皆様にも日本の技術の原点を再確認していただき、わずかでも元気の足しにしていただくことができれば、製作者としてこれ以上の幸せはありません。 |
▲様々なパーツをプラスチック素材で代用することができた |
ありがとうございました
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