「スターリングエンジンを開発するきっかけは何ですか? 」
湯本:自宅の近くで骨董市が開かれ、時々掘り出し物のメカが見つかるので、わりと足を運んでいるのですが、ある日、スターリングエンジンで駆動する扇風機を見つけました。骨董屋の主人の話によると、100年以上前のイギリス製で、ビルマに駐留していたイギリス軍が実際に使っていたものでした。これを見てどうしても欲しくなってしまい、5万円をはたいて購入してしまいました。(笑)
早速、自宅に持ち帰り動かしてみると見事に動作したのです。感動しましたね。この頃はまだ大人の科学シリーズはスタートしていませんでしたが、いつかこういう商品を作ってみたいと思い続け、今回やっと発売にいたったというわけです。
「なるほど、そのような出会いがあったのですね。では、スターリングエンジンを作るための一番のポイントは何でしたか?」
湯本:シリンダーとピストン部分の気密性をどう確保するかです。ピストンが空気の膨張・収縮によって動きますので、この周りから空気が漏れるようでは、力が出ないどころか動作すら怪しい状態になってしまいます。当初、この気密性を確保するために、ガラス製ピストンとシリンダーを使って実験していましたが、熱している間に割れてしまう事がありました。最初はどうして割れるのか良くわからなかったのですが、ピストンのふたの部分にプラスチックを使ったのが原因だということで落ち着きました。ガラスとプラスチックの熱膨張率はかなり違うために、熱がプラスチックのふたの部分に達した段階でガラスを割ってしまうようでした。結局ガラスはあきらめるしかなくなってしまいました。
「それでは何を素材にして作られたのですか?」
湯本:気密性と耐久性が必要な部品として、どんなものが使われているのか調べているうちに、電磁ポンプのピストンとシリンダーに真鍮(しんちゅう)製のものが使われているということを知りました。さらに、気密性を保つためには、真鍮製のピストンの表面にフッ素で膜を作り、その厚みで気密性を調整しているということもわかりました。ギリギリのレベルまで気密性をもてるように設計しますが、最後はフッ素加工の厚みで調整します。今回は最終的に100分の2mmというレベルでの調整となりました。これでガラスほどではありませんが、キットとして十分な気密性を確保することに成功しました |
▲スターリングエンジン試作品 |
「これで、スターリングエンジンも無事、完成ですね」
湯本:ところが最後に一番の難関が待っていました。実際に組み立てていただくお客様に、エンジンの稼動部分をどう調整していただくかという方法でした。
商品ができたのに、「調整できない」というのは、実に困ったことです。結局、発電用のモーターを利用することで解決しました。当初モーターは発電機として搭載していたのですが、これに電池をつなげれば、モーターの力でスターリングエンジンを強制的に駆動してくれます。こうしてモーターで駆動させながらネジを調整していくと、非常に簡単に摩擦のない場所を探ることができました。さんざん悩んだ挙句にたどりついた方法は、まさにコロンブスの卵的発想でした。この逆転の発想で問題は一気に解決し、商品を完成させることができたのです。
「スターリングエンジンのリリースにあたり、読者の皆さんへメッセージをお願いします 」
湯本:これまで海外製のスターリングエンジンのキットをいくつか見てきましたが、実際にエンジンの動力で走る車のスタイルのものはほとんどなく、今回の商品は、世界的に見てもかなり珍しいスターリングエンジンキットと言えるのではないかと自負しています(笑)。また、スターリングエンジンは、私にとってもかなり思い入れの強い商品です。夜中に自宅でビールを飲みながら(笑)よく動かしているのですが、まさに「大人の科学」的商品の1つの完成形ではないかと思っています。この不思議な高揚感を是非、一人でも多くの皆様に味わっていただければと思います。
「ありがとうございました」
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