「この「電波カー」も実験教室用に開発したんですか?」
湯本:そうです。これは、あるとき広島にある中国電気通信管理局というところから、子供たちに違法電波の啓蒙をしたいので、何か良い企画がないかという相談を受けて考えたネタなんですよ。ここは、無線などの違法電波に関する啓蒙をしているんですが、担当者が「大人になってからでは遅い」という考えで、何とか子供の時からやりたいということだったんですよね。
「では、これも先に企画書だけ書いちゃったんですか?」
湯本:そうなんです(笑)。でも、コヒーラの実験は私が「科学」の編集長時代に記事でもやってまして、実験が成功するのはもうわかっていたんです。
「最初から『電波カー』だったんですか?」
湯本:いや、最初の本誌での実験は、単に豆電球が光るだけだったんですが、豆電球が光るなら、モーターだって回るだろうと、結構簡単に考えてたんです。
「で、やっぱりモーターをまわすのに相当苦労したわけですね」
湯本:それが、これは簡単に成功しました(笑)。
「では、これは案外あっさり商品化できたわけですね」
湯本:それが、やはり量産するとなると部品でいろいろ苦労しましてね。これも圧電素子で苦労しましたね。 金子:実は、強い電波を出すためになるべく強力な放電をするものが欲しかったんですが、これが国内で全く生産されてないんです。
湯本:それで、中国で生産されているものを探したんですが、中国生産の部品って、こういう実験キットのようなロットではなかなか納品してくれないんですよ。
金子:あと、せっかく強力なものが見つかったんだけど、耐久性に問題があって、採用できなかったなんてものもありましたね。実験キットとはいえ、何度やっても実験に支障がないという耐久性は無視したくなかったですからね。
湯本:圧電素子というと、感電騒ぎもありましたね。 |
▲マルコーニ式電波カーの内部。上部の黒い筒がモーター |
「圧電素子で感電するんですか?」
湯本: 圧電素子をつけたリモコン部分のボルト、ナットがプラスチックになってるんですが、これを金属にしておくと、まれに手に電気が走ることがあるんですよ。それほど強い電流ではありませんが、あまり気持ちよくありませんし、安全のため、プラスチックの部品を採用したんです。
「今のものは、昔のものをだいぶ改良されたとか…」
湯本:今年は、スイッチが入って走り出したら、少しすると止まるようにしました。これだと、狭い場所で何回も電波を送って実験できますので。
「どういう方法で止まるようにしたんですか?」
湯本:マルコーニの作った無線通信機は、コヒーラをたたくハンマーがついていたんですね。つまり、コヒーラを振動させると通電が止まるという原理がありますので、これを再現することにしたんです。
金子:ただ、マルコーニのようにハンマーをつけるわけにもいかなかったので、コヒーラの下にペットという素材(ペットボトルの素材)の振動板をつけて、これを振動させるようにしました。
湯本:でも、これをちょうど良く振動させるように調整するのが大変でしてね。0.1mmきざみで厚みを変えて何度もやり直しました。でも、どうもなかなかうまくいかないんですよ。
金子:さんざん厚みや形を変えたり、スポンジを添えてみるとか、ずいぶんこれも徹夜のネタになりました。でも、これは最後に意外なオチがありましたね。
湯本:そうなんです。実は、モーターの回転数を上げたら、確実にうまくいくようになったんですよ。この振動板は、モーターの回転軸についたカムが跳ね上げるようになってるんですが、この速度を早くしたらうまく止まるようになったんですね。これは結構盲点だったんですが、おかげで一件落着しました。 |
▲「止まる」仕組みについて語る、金子氏 |
「おめでとうございます(笑) 」
湯本:最後に、このキットは電波の啓蒙活動にもってこいなんですよ。実験教室でこれを使うと、誰か1人が発した電波で、全員の車が動き出したりするんですね。つまり自分の電波で人のものが誤作動してしまうということを実感することができるんですよ。こういうことを体験していると、違法無線の電波がなぜいけないのかとか、電車の中や病院内での携帯電話がなぜいけないのか、なんてこともよく理解できるようになるんですよ。最初の電気通信管理局の啓蒙したい内容もまさにこの点でして、ぜひ、お子さんと一緒に実験していただきたいと思います。
「ありがとうございました」
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