「このロボット、以前テレビで見た記憶があるんですが…」
湯本:実は、このロボットは、もともとはソニーさんが行っているデジタルドリームキッズという実験教室の教材として開発したものなんです。この実験教室の様子が、2000年の12月にテレビ番組として放映されたので、ご覧になった方も多いかもしれませんね。
「動作をプログラムするロボットですね」
金子:そうなんです。上にある円盤の升目をマジックで塗ることによって動きをプログラムします。ロボットにペンをセットするところがありますので、ここにペンをセットして紙の上を走らせると、プログラムした軌跡を紙に記録することができるんです。
このロボットも、実は発想の原点は、やはり科学のふろくにあったんですよ。ずいぶん以前の6年の科学のふろくに、てこの原理を利用したロボットがあったんです。これは、回転する円盤が頭についていましてね。その外周にアームがあって、円盤の外周の凹凸を拾って動くアームが、車輪の向きを変えるという機能をもっていたんですね。
「やはり原点は科学のふろくなんですね」
湯本:そうです。科学のふろくについたロボットは、完全なアナログですが、円盤の外側の凹凸をいろいろ工夫すれば、自分で動く方向を変えたりすることができるというものだったんですね。ということで、最初はこれをうまく応用してロボットができないかと考えたんです。でも、円盤の形を自分で変えるというのは、結構難しいので、もっと気軽にプログラムができるような方法をいろいろ考えていたんです。
「それで円盤を白黒に塗るという方法を考えたんですね」
湯本:そうなんですが、やはりここにたどり着くにはちょっと時間がかかりました。というのは、最初はテープ方式のプログラムにこだわっていたんですよ。
「テープでのプログラミングというのはパンチカードのようなものですか?」
湯本:そうですね。そういうものも試作しました。このときも、ずいぶんいろんなものを考えました。例えば、テープにホチキスを止めたものとか、テープに鉛筆で色を塗ったりしたものとか…。どれもそこが通電するようになるので、それでON、OFFを制御しようと思ったんです。どれも不安定でどうしようもなかったんですが…。 |
▲プログラミングは、テープ型からディスク型に変更に |
「そこでディスクにいきついたと…」
湯本:いや、テープには結構こだわりがありましてね。実はロボットとして、最初からスターウォーズのR2D2のスタイルをイメージしてたんですよ。ですから、頭にはアクリルの半球がついていて、この中にテープのプログラムが格納されているというスタイルに、すごくこだわってたんです。頭の中にテープが入ってるって、なんか脳みそが入ってるみたいでかっこいいじゃないですか(笑)。
金子:でも、プログラムがエンドレスに動いた方がいいということで結局はディスク型に落ち着いたんです。それまでにはいろいろありましたが(笑)。
湯本:通電方式も、接触式をいろいろ試したんですが結局どれも安定せず、結局CDS(光センサー)を使って、光が当たると通電するという方法で制御することにしました。フォトトランジスタも使ってみたんですが、昔から科学のふろくでよく使ってるCDSの方がなじみがありましたし、その方が安定したんですね。
「スタイルはR2D2にやっぱりこだわったんですね」
湯本:結局あんまり似てないんですが(笑)、2個の動輪の動きのON、OFFで向きを変えるというスタイルは、最初から頭にあったんで、必然的に今のような形になりましたね。
金子:形はわりと小さいんですが、この中に3個のモーターと3個のギヤボックスが入ってますので、動作音がけっこうします。
湯本:最初の試作は本当にうるさかったですね。実験してるといやになるくらいでしたね。今はもうモーターの回転数を下げたり、ギヤボックスの設計を変更したりしてずいぶん静かになりました。でも、深夜に実験するのはちょっと止めたほうがいいかもしれませんね(笑)。
金子:最初は電池を3本使う4.5V仕様でやってたんで、音もすごかったですね。音だけの理由ではなく、重くなって動きがわるくなるし、ボディが大きくなりすぎるということもあり、結局乾電池2本の3V仕様に変えました。
「ロボットはどんなしくみで動くんですか?」
湯本:プログラムディスクの外周部分が右車輪、内周部分が左車輪の動きを制御します。升目を塗ると、塗った黒い部分がCDSに当たる光をさえぎって通電が止まる。すると連動した車輪が一定時間止まります。これでロボットの右、左への回転を制御するんです。原理は簡単に言うとこんなところです。シンプルな原理なんですが、でも「大人の科学」的な奥の深さがあるんです。実は、このロボットはそれぞれけっこうクセがあるんですよ。 |
▲全く同じプログラムでも個体によってクセが生じる |
「ロボットにクセがあるんですか?」
湯本:そうなんです。実は、全く同じプログラムの円盤をつかって走らせても、個体によって微妙に違う軌跡を描いたりするんですよ。
金子:これは、車輪を動かす2つのモーターの微妙な回転数の違いとか、2つのCDSの微妙な感度の違い、ギヤボックスの抵抗の違いなどが影響するんです。だから、逆にいうと、自分のロボットと完全に同じ動きをするものは世界には他にないといえるんです。
湯本:ちょっと大げさですが、完全なマイロボットですね(笑)。キットにはチェックプログラムがついてますので、このディスクをセットして軌跡を書かせてみると、自分のロボットがどんなクセがあるのかがわかります。
金子:自分のロボットのクセがわかったら、ディスクの塗り方をちょっと調整することでこのクセが修正できるんです。
「なんだかずいぶんアナログな感じがしますが…」
湯本:まあ、こういうカスタマイズというか、試行錯誤ができるところが、大人の科学のウリですから(笑)
金子:だいたいプログラム円盤1枚で54~58秒の動作をプログラムできます。この間で一筆書きできる図形を書くようにいろんなプログラムを作って楽しむことができます。
湯本:LOVEという字を一筆書きで書くように必死にプログラムしたんですが、まだなかなかうまくいきません(笑)
金子:こんな簡単な円盤でのプログラムですが、プログラムのパターンの組み合わせを計算すると、天文学的な数の組み合わせがありますので、それこそ無限にいろいろな図形をプログラムで作ることができると思います。
湯本: しくみはわりと簡単ですが、奥は深いですので、ぜひ楽しんでみていただければと思います。
「ありがとうございました」
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