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[第3回]ペーパークラフト・アーティスト  光武利将

細密な装飾の施された高級腕時計から、巨大にして複雑な東京都庁舎まで。その形の隅々までを頭の中で分解し、1枚の紙に「展開図」として起こす。それがペーパークラフト・アーティスト“光武利将”の匠の技だ。光武の解説に従ってつくってゆくと、やがて1枚の紙が本物かと見まごうばかりのリアルなペーパークラフトとなる。そんな光武も、また、かつては「学研のふろく」に夢中…のはずだったのだが…。

文/佐保圭 ムービー制作/眞形隆之 写真/編集部

「ペーパークラフトの世界」とは

MOVIE

光武利将さんに聞く【前編】

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 ひとくちに「ペーパークラフト」と言っても、作品にはいろんなタイプがあり、大きくは2つのタイプに分けられる。

 1つは、ペーパークラフトをつかってイラストレーションにするタイプ。紙を使った三次元的な「絵」なので、鑑賞する方向、あるいは雑誌になどに掲載するための写真を撮るカメラのレンズ方向は「正面から」という一方向に限られる。よって、たとえば、葉っぱの上でチョウチョをねらうカマキリなど、ある1つのシーンを紙でつくった場合で考えると、表側から見てきれいでさえあれば、カマキリやチョウチョの体の裏側など、目に触れない部分がテープでべたべたとめてあったとしても、全く問題ないわけである。

 もう1つは、ペーパークラフトでモデルの形を立体的に再現するタイプ。紙を使った立体的な「スケールモデル」なので、前からも横からも後ろからも、ありとあらゆる角度から鑑賞できることが条件となっている。よって、例えばカマキリの場合、どの角度から眺めてもカマキリに見えなくてはならないだけでなく、接着するためのテープが見えたりしてもいけないのである。さらに、光武さんの場合は、この「スケールモデル」のパーツとなる展開図を紙に印刷するときのデザイン、その紙の展開図から切り出したパーツを最も効率的に組み立てるための簡潔な解説書を作成するのも仕事の1つとなる。

 そんなペーパークラフト職人・光武将利さんに、まずは、最近人気が益々高まりつつある「ペーパークラフトの世界」について訊ねてみた。

▲光武氏はリアルで精巧なペーパークラフトを作る“職人”である。手前の箱の中にあるのは、「ブレゲ」の腕時計。紙でできていると、俄かには信じがたい出来映えだ。

記者 紙の模型職人はどれくらいいらっしゃるんですか?

光武 ぼくが小さい頃から活動されている70~80歳の方もいらっしゃいますし、30~40代の人で活躍している人も10人くらいいらっしゃるんじゃないですか。

記者 なぜ、何十年も世代が離れた第二世代が現れたのでしょうか?

光武 インターネットの普及で、ペーパークラフトの型紙がPDFや画像ファイルとして簡単にダウンロードできるようになりましたし、HPなどで発表することができるようになって、注目を集め始めたのだと思います。

記者 光武さんのような「紙でスケールモデルをつくる」というペーパークラフト・アーティストの中でも、いくつかのタイプに分かれると聞きましたが?

光武 そうですね、精密なものを紙でリアルに再現する「精密系」とか、形の緻密さよりも、むしろそのものの動きをかなり忠実に再現できるようにつくられた「ギミック系」とか。他には、動物をモデルにしたペーパークラフトが得意な「動物系」とか、からくりでハンドルを回して動きをつける方とか…いろいろ得意分野も違ってきます。

記者 ちなみに、光武さんは?

光武 私の得意なのが2種類あるのですが、すごく精密で「あれ? これ、紙でできてるの?」というもの…。

そう言って、光武さんは、持参した紙袋から作品を出した。世界でも指折りの最高級時計「ブレゲ」の腕時計だ。
記者 これがペーパークラフトだなんて、ちょっと見ただけではわからないですね。バンドのところの革の質感まで出ていますね。つやつやと光っているのも…。

光武 印刷もありますが、これは紙の質感を活かしているんです。

記者 光武さんのHPで前もって見てはいましたが、ネット上の写真だからリアルに見えるのかと思ったら、実物の方がよりリアルですね。まるで睫毛ほどしかない針までちゃんとつくられているんですね…この秒針の繊細な波型の形も、カッターで切り抜けるんですか?

光武 一番切れそうなところはカッターで切りますが、細いところは紙だとよじれてしまうので、木工用ボンドを水で薄めて、ちょっと塗るんですね。すると固まりますので。「そんなところまで紙でやる必要ないんじゃないか!」って言われるとそれまでなんですが、そういったちょっとした工夫をして、切るんですね。これを完成させる展開図、それから作り方の解説などを一式用意するのが、僕の仕事です。

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