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ストリート・オルガン・フェスティバルを訪ねて

文・写真/村上泰造

 前回に続いて、ドイツのヴァルトキルヒで2008年6月13~15日に行われた「ストリート・オルガン・フェスティヴァル」についてご紹介しましょう。

手回しオルガンのコンサート

 街のあちこちの通りに手回しオルガンがずらりと並び、商店のウィンドウにもオルガン関連の資料が飾られて、オルガンであふれたかのようなヴァルトキルヒですが、手回しオルガンと他の楽器とのアンサンブルのコンサートも開かれました。町の歴史博物館前の特設野外ステージ、博物館のホール、そして教会でも。

 このフェスティヴァルではおなじみの作曲家のアドリアン・オスヴァルトさんがトランペットやフルートとの合奏曲を演奏しました(写真上)。

 小さなオルガンの音が教会に気持ちよく響き渡ります。聴いていてまったく自然で、何の無理もありませんが、手回しのオルガンと普通の楽器がぴたりと息を合わせるのは並みのことではありません。しかも小型の手回しオルガンは2オクターブ半の音域があっても出る音の数は20 だけです。編曲にもいろいろな工夫が必要です。

教会での演奏会。手回しオルガンとフルート。

 さて今年のオルガン祭りのテーマは「パリ」です。フランスのパリの雰囲気をだそうと、通りのオルガン弾きの人たちもシャンソンを流したりしていますが、そのパリから、ゲストにピエール・シャリアルさんが招かれています。

オルガンを演奏するピエール・シャリアルさん。

 シャリアルさんはストリート・オルガンの世界では超有名な作・編曲家。主に27 音のオルガンのためにブックを作っています。シャリアル氏の音楽を演奏したいからストリート・オルガンを持っている、という人もいるくらい。リゲティのCDでお聞きになった方もあるでしょう。

 そのシャリアル氏が自作曲を自分のオルガンで演奏。ビール片手に聞き入っている観衆はやんやの喝采であります。シャリアルさんは野外ステージだけでなく、博物館のホールでのサキソフォンとの演奏会にも出演され、ストリート・オルガンが素晴らしい楽器であることを改めて知らしめたのでありました。

オルガン工房

 ヴァルトキルヒには、教会やコンサート・ホール用のオルガンの工房のほかに、手回しオルガンの工房もいくつかあります。

 まずこのフェスティヴァルの中心的な存在のイェーガー&ブロンマー工房をご案内しましょう。広い工房内は教会やコンサート・ホール用のオルガンが数台並行して作られています。その一角に手回しオルガンの作業場があります。

 20音から56音まで大きさもデザインもさまざまです。中には2005年の愛知万博に招かれた「からくりオルガン」もあります。これは手回しオルガンのほかに10個の打楽器や笛を10人の人たちがいっしょに演奏するオルガンです。

 また工房の隣には歴史的なストリート・オルガンの展示室があり、イグナツ・ブルーダーを祖とするヴァルトキルヒのストリート・オルガンが解説パネルとともにずらりと並んでいます。今年展示室は2階にも増設され、ちょっとした博物館です。展示室には鳥オルガン(セリネット)もあります。

愛知万博に出展された「からくりオルガン」。

 そのセリネットを作っているのは、シュナイダー工房です。この工房ではセリネットをはじめ小型の手回しオルガンを専門に作っています。

 工房も小ぶりです。仕掛のオルガンや材料、工具がきちんと整理されておかれています。セリネットのバレルのピンの位置を決める仕組みやフイゴの空気圧をはかる機械の説明も展示されています。オルガンの中身のほか、ケースや表面の象嵌も作っています。その様子も分かるよう丁寧な展示が印象的です。

仕組みが見えるように、
枠板を外したセリネット。

本誌でも紹介された
記譜ダイアルも。

パイプの音程と空気圧を
量る装置。

 象嵌がひときわ美しいオルガンを教会の前で見つけました。ヨハン・ゲバートさんのオルガンです。

「星の王子様」の象嵌がきれいな
ゲバートさんのオルガンを弾く人。

 ゲバートさんはフランス人でフランスに住んで工房もフランスにあるのですが、クルマで30分のこのヴァルトキルヒにも工房を持っているのです。ほんとうにヴァルトキルヒはフランス、スイスに近いのです(そういえば広場の回転木馬はスイスのバーゼルから来ていました)。

 ゲバートさんは大きなストリート・オルガンの修復もしますが、27音のブック・オルガンも作っています。象嵌はもちろん、オルガンの取っ手も型を作り真鍮で鋳造するという徹底振り。きれいな仕上げのオルガンは、工芸品のようです。

譜面からブックに
記譜する装置。

記譜したブックに
穴をあける機械。

 そのゲバートさんの友人のハンスヨルク・ライブレさんはユニークなアニメ・オルガンの作者です。

 いまどき珍しいバレル式のオルガンで、いろんな人形が様々な擬音とともに面白おかしく動きます。擬音がまた編曲に組み込まれていて、何ともユーモラス。

 演奏が始まるとオルガンの前の人たちはにこにこして見入り、爆笑!、であります。

人形たちがいろいろな動きをする
ライブレさんのオルガン。

 とても複雑かつ巧妙な仕組みがオルガンの裏に隠されています。他にはない、一度見たら忘れられない楽しさです。

オルガンの底には人形を動かす仕組みが
ぎっしり。

 ライブレさんのオルガンは日本にも来ているのでご覧になった方もあるでしょう。山梨の清里にあるホール・オブ・ホールズ や東京の目白台のオルゴールの小さな博物館、信濃町の民音音楽博物館でも展示されています。

鳥オルガン

 さて、日本が誇る学研「大人の科学マガジン」のふろく、手回し鳥オルガンを何人かに弾いてもらいました。

 とりあえず、みんなびっくりです。

 「なぁに?、これは?」、「あ、音がでる!」、「よくこんなに小さくできたなぁ」、「こりゃ面白い」、とだれもが大喜びで演奏してくれました。

 そして「長音がでなくて全部トレモロだと、ホントはオルガンとは言えないね」、「歌うオウムと話すオウムは別だよ」との言も必ず出るのは、さすが本場のオルガン職人たち、といえるでしょう。

 でもみんな、「よくできてる」、「たったの15ユーロ?!」、と感心しきりでありました。

鳥オルガンを演奏するゲバートさん。「ヨーロッパでも売ればいいのに」。

ブロンマーさんも鳥オルガンが気に入りました。

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