孝和の研究は多岐にわたるが、そのひとつは円周率の計算である。
円周率を求める方法はアルキメデスの時代から知られていた。その方法は円に内接する正多角形の角数を徐々にふやしていき、その辺の長さを計算して、近似するというものだった。アルキメデスは正96角形を使って3.14という数字をえた。孝和も同様な方法で正13万1072角形の辺の長さを計算し、円周率を小数以下11桁まで求めた。そして円周率をあらわす近似分数として355/113を示した。
ライプニッツに先駆けて導入したのが行列式である。行列式とは数を縦横に並べた行列に対する計算方法(展開式)で、孝和はこれをふたつの変数を含む二つの方程式から、未知数を消去する過程で発見したいわれている。その研究成果は関が著した『解伏題之法』(1683年)に示されている。
『解伏題之法』東北大学和算ポータル所蔵
孝和は方程式を、問題の性質によって解見題、解隠題、解伏題と分類し、それぞれ解法を示した。解見題とは算術計算で解ける問題、解隠題とは未知数が一個の方程式、そして解伏題とは、二つ以上の方程式(連立方程式)を解いて答を求められる問題である。この解法のために孝和が考案したのが、「交式」と「斜乗」からなる行列式の展開だった。
行列式は西洋数学では、ライプニッツが1693年に導入したのが最初だったとされている。孝和の発見はこれに約10年先駆けるものだった。のちに孝和の解法は3次の行列式までは正しかったが、4次以上には誤りがあることが判明した。しかしこれによって独力で行列式を開拓した孝和の先駆的業績が損なわれることはないだろう。
さらに前出『楊輝算法』にヒントをえて、高次方程式の近似的な解を求める解法(ホーナー法)も孝案した。イギリスの数学者ウィリアム・ホーナーが同じ解法を発見したのは19世紀はじめで、孝和は同等の解法を1世紀以上早く示していたことになる。
孝和はいわゆる「円理」の創建にも貢献した。円理とは前出の円周率や円弧の研究から発展した和算の一分野で、孝和以降の発展によって三角関数や積分、無限級数などが扱われるようになった。
また彼の死後、刊行された『概括算法』(1712年)には、フランスのヤコブ・ベルヌーイが発見したベルヌーイ数が示されている。両者ほぼ同時期の発見だっため、この級数は「関・ベルヌーイ数」とよばれることもある。これ以外にも数多くの先駆的発見を行った。
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