のびず、きれず、そして 音を遠くまで伝える糸は?
台風22号一過、その翌日の大晴天を予測し、主任・西脇は実験日を10月17日に選んだのだが…マズイ、曇天、霧雨の降る肌寒い朝だった。糸が雨に濡れると重さを増して張りにくくなってしまうのではないかという危惧を抱えつつも、しかし。「1kmの記録を達成してやろうではないか!」と、湯本村長の開村宣言が、津久井湖城山公園に響いたのである。
まずは糸の選定実験から始めた。用意したのは建設基礎工事などで使う水糸、太めの絹糸、そしてポリエチレンの釣り糸の三種。糸の長さは20mだった。
村役員、村民全員が唸った。もう断然にポリの釣り糸の感度が頭抜けていたのである。水糸では、耳元で季節外れの蚊が鳴いているようにしか聞こえなかったが、釣り糸では相手の声が熊蜂の羽音のように響き、言葉も凄く明瞭。村民LOCOさんの、「聞こえたら右足を上げてくださーい」に、20m向こうの湯本村長が右足を上げた。釣り糸ならば水に濡れても大丈夫だろう。世界記録達成の本番は釣り糸の使用が決まった。
次にコップの選定である。大小深さ様々の紙コップ、空き缶、プラスチックコップ、今号ふろくの蓄音機ホーン、鉄のバケツなど数種で音の伝わり方を実験してみたら予測した通り、一番はふろくのホーンだった。次に空き缶。面白かったのはバケツと特大紙コップである。大人の頭全体がその中に入ってしまうので、受話と送話とが同時に可能だった。しかし残念だが、何を言っているのかまでは判らない…。結果として振動板は小さく、その先が広がっている形状が、音を最も伝えるということを理解した我々だった。
ふろくのホーンにポリの釣り糸をつないだ実験村スペシャル糸電話で、1kmに挑戦! と決定したのである。糸の長さ1kmの糸電話はもはや子どもの遊びではない、おお、まさに大人の科学の領域ではないか!
過去4回の実験村では、忘れ物、準備不足などを連発し、金子助役のブーイングを激しく食らった西脇主任だった。ところが、しかしである。今回の主任には神風が吹いたのだ。
台風翌日の湖水はどんよりと濁り、廃材、枯木、木の葉などが湖面を埋め尽くし、そのため釣り人が一人も出ていなかったのである。釣り客の邪魔をしてはならない! と、津久井湖管理事務所からきつくお達しを食らっていたが、その心配がまったく不要、奇跡的な実験日和となったのだ。
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