自らの世界記録を破るのは、自分自身と意気込んだ西脇主任の檄が対岸の湯本村長に飛んだ。その檄も、ま、その…携帯電話使用でしたけど、それには眼をつぶっていただきたい。
対岸の湯本班は、再びボートを漕ぎ出した。こちらから見て右斜めへと移動する。途中の突き出した崖を越えて更に右に進むと、グッと奥へ切り込んだ入り江の最深部に着く。金子助役がオールを操る。
時刻は午後4時、辺りは薄闇に包まれ始め、対岸向こうの山の頂にかかっていた霧が降りて来て、湖面を覆い尽くした。移動し始めたときは、LOCOさんの被っているオレンジ色の被り物がこちらからやっと確認できる状態だったが、ああ…とうとうそれも見えなくなってしまった。
西脇主任が携帯電話で湯本班の入り江接岸を確認する。力一杯引いて糸をピーンと張る。そしたら、糸の長さは500m! と出た。糸は目の前から白い霧の中に溶け込んでしまっている。長谷川母子が声を揃えて蓄音機ホーンに向かって歌い出した。
「カエルの歌が聞こえてくるよ、ガ、ガ、ガ、ガ、ケロケロケロケロ、グワグワグワアー。聞こえましたかあ?」
彩音ちゃんの彩なる歌音、さあッ、どうだあ、糸を震わせ500m向こうの湯本村長に届いたか?
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