湖を越えて通話できるか?
湯本村長が、目印用蛍光塗料を入れたペットボトルを崖の上から湖に投げ込んだ。ペットボトルには釣り糸が結ばれている。手漕ぎボートを出し、それを拾う。乗り手は湯本村長、LOCOさん、漕ぎ手が金子助役。こちら側の崖上に残ったのは、長谷川さん母子と西脇主任。ボートが目指したのは真っ直ぐ正面の対岸で、着岸してから糸の長さで距離を計ることにした。それが300m以下だったら、どーすんの? であるが、結果オーライを期待しつつボートが湖面を進んで行く。しかし金子助役のオール扱いは、「任せなさい」の言葉とは裏腹にひどく頼りなく、終始右に左に蛇行し、やっと十数分後に対岸に到着のトホホ状態だった。
難題は、糸を湖面に接触させず両岸からピーンと張れるかどうかである。細い鉄パイプに糸を結び、合図を確認してから思い切り引いてみた。そうすると、引っ張り強度が抜群な上に軽いポリの釣り糸はさすがである。湖面に触れることなく糸がピーンと張ったのだ。その距離360m!
しかし、いわば360mの綱引き状態で、かなりのテンションがかかる。互いが針にかかったカジキマグロと格闘しているような状況だった。無風だったことも大きく幸いしたと思われる。ボートを何艘も出して、糸を空中に支える中継点を設置しなければならないだろうと予測していたのだが、それも必要なかったのだ。
今回の実験村、どういうわけか珍しく快調である。接岸した直後、岩から滑り落ちそうになった湯本村長が、なんとか態勢を回復して、いよいよ第一声を発する。こちら側ではホーンを耳に当てた長谷川さんが、じっと息を飲む。空は曇天、周囲は静まり返っている。と、長谷川さんが呟いた。 |