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第8回 本邦初!? 富士の頂にて、宇宙線「ミューオン」を霧箱でキャッチする!


いつも身の回りに飛んでいる放射線

放射線は、原子の中にある原子核が壊れるときなどに飛び出る粒子や電磁波で、物質を通過する能力をもっている。  放射線というと被爆→死をイメージしてしまうかもしれないが、それは多量の放射線をあびたときの話であり、私たちは常に大地や空気中、食物などから出る放射線、そして宇宙から来る放射線(宇宙線)をあびて生活している。これらは自然放射線とよばれ、はるか昔から地球上にあるものだ。

放射線には、α線、β線、γ線、などがあり、それぞれ透過力がちがう。

原子核から飛び出す放射線

原子の中心には原子核があって、原子核はさらに陽子と中性子に分けられる。この陽子と中性子の数のバランスが悪い不安定な原子核は、陽子や中性子を放出して崩壊し、より安定な原子核に変わっていく。この崩壊の時に出るのが放射線だ。

α線のでき方の例 〜α崩壊〜

不安定なラジウム原子核からα線(陽子2個と中性子2個)が飛び出して、より安定したラドン原子核になる。

霧箱では、数cmの太くて直線的な飛跡をつくる。

β線のでき方の例 〜β崩壊〜

不安定なラジウム原子核からα線(陽子2個と中性子2個)が飛び出して、より安定したラドン原子核になる。

霧箱では、縮れた髪の毛のような飛跡をつくる。

γ線は、原子核からα線やβ線が出た後に余ったエネルギーとして飛び出す。γ線は粒子ではなく電磁波なので、γ線自体は霧箱内で飛跡を残せない。しかしγ線は、空気の分子からβ線(電子)をたたきだすので、β線の飛跡として観測される。

スーッと走る一筋の飛跡!α線だ!

 5合目での実験開始である。戸田先生の指示に従い、「霧箱」をスタンバイ状態にする。そしてしばらく待つ。すると霧箱底部に敷いた黒色紙と触れる空間に、モヤモヤと霧が漂い始めた。暗黒空間に漂う白い無数の霧粒、それを凝視していると、霧箱内が広大な宇宙のように見えてきた。と思ったら、おおおっ、一筋そして二筋目の飛行機雲が走ったのだ。

 「今走ったのはα線とβ線です」

 と戸田先生。共に宇宙線ミューオンではないという。α線・β線は地球上の岩などからも放射されているもの。ミューオンはもっと長く直線的な飛跡を作るそうで、やはりもっと高い場所に登ったほうがいいのでしょうねえ⋯口籠った瞬間だった。まさにさっきの二筋よりも長く直線的な飛行機雲が右から左へと走ったのである。

 「今のはミューオンです!」

 戸田先生が断言した。我々は宇宙線の飛跡を見たのだ。宇宙線は高ければ高い場所ほどその量が多い。目指せ富士山頂である。

 が、しかし。富士山頂を目指せ!と吠えた本人の湯本村長が膝の故障のためドクターストップがかかり、5合目でリタイアという。よって、臨時村長にハゲの金子を指名。私も山頂までは付き合えないから息子を連れてきましたという戸田先生もリタイア。湯本の命令なら渋々聞いてもいいが、金子のそれじゃなあ⋯と不満顔の西脇主任、僕がしっかり親父の代役を務めますの武宏さん、急遽大役を担ってほくそえむ金子、その3人が富士山頂を目指すことになったのだった。

 村長湯本は「戸田先生と麓の温泉につかりながら、君たちの実験成功を期待して待つ」と言った。残念な表情をしつつ、目が笑っている。次期村長選は、大丈夫かあ?などと思いつつ、3人はまずは7合目を目指し登山を開始したのである。

だれでもできる霧箱の作り方と観察方法

底が平らなガラスのボウルを用意する。ボウルの内側の上のほうに、スポンジテープ(サッシのすき間をうめるときに使うもの)を貼る。落ちやすいので、強く押しつけてしっかり貼る。底には、霧が見やすいように黒い紙をしく。木づちでドライアイスをできるだけ粉々に砕いておく。

発泡スチロールの板にボウルがはまるくらいの穴をくりぬき、砕いたドライアイスを入れる。ドライアイスとボウルの底が密着するように、ボウルを上からバンバンたたきつける。

エチルアルコール(99.5%)をスポンジテープにたっぷりかける。また、黒い紙とボウルの底が密着するように黒い紙にもかける。底にアルコールがたまりすぎると冷却効果が落ちるので注意!

ボウルの口をラップで覆い、懐中電灯で底を明るく照らす。しばらくすると飛跡が観察できる。ときどき塩ビパイプをティッシュでこすって静電気を起こし、ボウルの上で水平に動かして、霧箱内の不要なイオンを除去する。

なぜ霧箱で放射線が見えるのか

ドライアイスでキンキンに冷やされているため、気体になったアルコールは、上の方では飽和状態、下の方では過飽和状態になっている。

電荷を持った放射線が通ると、霧箱内の空気などの分子の電子がはじき飛ばされて、イオンになる。

できたイオンを核にして、過飽和状態のアルコール分子が集まり液滴になる。液滴は放射線の通り道に沿ってできるから飛跡として観測できる。

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