午後5時30分、3250mの富士8合目に到着。岩陰の最適な場所を発見、早速、霧箱のセッティングに取り掛かった。武宏さんが塩ビパイプをティッシュで摩擦し、静電気を起こす。しかし、両方ともが水蒸気の霧に濡れているため静電気の発生量が少ない。
ミューオン観察のためなら、死んでもいい!⋯と思えるようにならなきゃ本物じゃないのだとオヤジに子どもの頃から教え込まれている武宏さんは諦めない。必死で静電気を起こそうとラップの上を撫でるように擦るのだった。
そうしたら、飛んだ。走ったのである。霧箱の端から端までとはいかないものの、7合目で見たものより長いミューオンの飛跡が、最高潮の時には3〜4秒毎に1本の割合で、音もなく走ったのである。凄い!と西脇主任が声をあげる。もしも、今目撃した飛跡の中に超新星爆発の残骸からやってきたミューオンが含まれるならば、なんと西脇は今から約1000年前に発生した宇宙線をその目で見たことになるのだ。 |