登れば登るほど気温が下がる。 霧箱はうまく機能するのか!?
標高2780mの新7合目に到着。100万円もする高性能拡散型霧箱を壊すとマズイので、簡易版「霧箱」だけを担いで登ってきたのだった。平らな場所に位置を占め、早速実験準備に取り掛かる。
アルコールを入れたガラスボウルを下からドライアイスで冷却、調理用ラップで蓋をしてその上にホッカイロを載せて温める。周囲から懐中電灯の光を当てて、黒いビニールシートをかぶり、3人が覗き込んだ。富士山新7合目で、こんなことをしている奴らは皆無である。見た目が実に怪しい。
声をあげずにひっそりとやりましょ、と西脇主任。それだと余計に怪しく見えるじゃないか、と臨時村長金子が言いかけたとき、α線の飛跡が走った。β線も走ったが、5合目のときよりも数が少ない。武宏さんが、塩ビパイプをティッシュで擦って静電気を起こし、それでラップの上を軽く撫でる。霧箱内の雑多なイオンを除去するためである。
ホッカイロよりも手の平を当てた方が温まるんじゃないか?と西脇主任が手を出そうとしたときだ、おおお、長いそして真っ直ぐな飛跡が走ったのである。しかもほぼ同時に3〜4本だ。
「今のは絶対にミューオンです!」
と武宏さんが叫んだ。5合目で見たたった一筋のあの飛跡に比べれば、我々は新7合目で宇宙線ミューオンの乱舞を目にしたと言っても過言ではない。
おおお、と全員が感動に震える。が、しかし。更にもっと見たい!と金子臨時村長が唸ったその瞬間、パチッと音がしてラップが破れた。霧箱内が水蒸気の霧で充満してしまう。あああ、西脇主任の指の爪先がラップを破いてしまったのだった。 |