超電導物質は、冷却していくとある温度で電気抵抗が一気にゼロになる。この温度を臨界温度といい、より高い臨界温度を持つ超電導体を発見すべく、現在も各国で研究が進められている。ここで少し歴史を振り返ってみよう。
1911年、世界で初めてオランダで水銀が臨界温度4.15K※で超電導状態になることが発見される。その後、続々と金属系の超電導物質が発見され、臨界温度の記録が塗り替えられていく。このとき冷媒には高価な液体ヘリウム(4.2K)が使われた。液体ヘリウムは、その沸点の低さゆえに研究者でも扱いが困難な液体だ。
1970年代後半、超電導の研究開発において、アメリカとソ連の軍事利用を目的とした開発競争が始まる。岩田先生が開発した電磁推進船にも興味を示し、視察に訪れている。それは電磁推進式の潜水艦は静かで高速のものになると考えられたからだった。
1986年、ついに臨界温度が30Kよりも高い超電導物質が発見される。それはそれまで絶縁体として考えられていたセラミックだった。その後、臨界温度が90K以上の超電導物質が発見され、それ以降、比較的安く扱いも簡単な液体窒素(77.3K)で超電導状態が得られるようになった。
ちなみに液体窒素の液化には『大人の科学マガジン10号』ふろくのスターリングエンジンの原理を応用した冷凍機が使われている。
現在、さらに高温で超電導状態になる物質を探し求め研究が進められている。究極は常温でも超電導状態になる物質の発見ということになる。
今回の船に搭載した超電導コイルも高温超電導だからこそ、村民でも扱うことができたのだ。 |
今回、お借りしたコイルは、岡崎さんがグループ長を務める住友電工の超電導開発室が開発した臨界温度110Kというセラミック系の高温超電導コイルだ。
このコイルに使われている線材は、銅の130倍もの電流を電気抵抗ゼロで送ることができる。そのため、その線材をコイル状にしたものからは強力な磁場が得られる。
この高温超電導コイルは、バルク(かたまり)の超電導物質とはちがって、流す電流を変化させて簡単に磁場を制御することができるため、機械への転用がしやすい。たとえば、すでに不純物を磁気分離する装置やLSIのシリコンウエハの材料となるシリコン単結晶を作り出す装置、省エネ超電導モーターなどに応用されている。
セラミック系の超電導物質を線材にしたりコイル状にしたりすることは、大変難しい。それは、細長い陶器を割れないように曲げるイメージだ。実用レベルに達している日本の高温超電導線材の開発技術は、まちがいなく世界の最先端だ。
ビスマス系超電導線材 写真提供:
住友電気工業株式会社 |
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