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第9回 世界初の航行へ「高温超電導ヤマト2」、発進せよ!

いよいよ進水式 あれれ、船が沈まないぞ!
あれれ、船が沈まないぞ!
波の穏やかな潮だまりに船をゆっくり進める。

推進装置は完璧だ!
さっそく船を海へと進ませる

 では、と湯本村長が「水流の発生は確認できたので、本日のメイン、大人の科学マガジン手作りの高温超電導電磁推進船ヤマト2を海に浮かべ、航行実験を行います」と宣し、主任西脇と金子助役が船を潮だまりにそうっと下ろす。

 が、その手が放せない。なぜかというと、ヤマト2の浮力が勝ち過ぎ、手を放すと海面からポコッと浮き上がってしまい、倒れそうだったからだ。さっきは、浮力までは確かめられなかったのだ。

 主任西脇はすがるように岩田先生を見た。船の設計は岩田先生が担当したのだ。船体の大部分を占める発泡スチロールの浮力、それに対する船の重さを計算したのだ。よって、岩田先生の設計図通りに船を作れば、船は海面に安定して浮くはずなのである。その通りに全てを作ったのに、手を放すとヤマト2は横転してしまいそうなのだ。

 「浮力が強過ぎるなら船を削ればいい!」

 蒼ざめた西脇を睨みつけ、村長湯本が言った。もうお前たちには任せていられないと、湯本はカッターナイフで船体の発泡スチロールを削り始めた。

 金子が西脇に刺すような視線を放つ。西脇主任は入りたい穴もない。が、ヤマト2の設計段階からミスがあったのなら、それはオレのせいじゃないでしょ? と金子を見た。じゃあ、誰のせいだよ! の視線が西脇に流れ、その直交する方向に視線を逸らす。あ、フレミングの左手の法則に従うように、ややっや、あ…「あんたが責任をとりなさいよ!」の電磁力が発生して、岩田先生に突き刺さったのだ。

 な、なんなのよ、え? と岩田先生、硬直した。湯本はカッターナイフで船体の発泡スチロールを削り続けていた。セラミック岡崎は、ド素人相手に最先端の実験をしようとしたのが間違いだったのだ…と頭を抱えた。が、しかし。浮くなら上から押さえつけりゃいい、と思った。

大急ぎで船を大改造! バッテリーも増設だ!
バッテリーも増設だ!
船を安定させるため、ビニールひもで発砲スチロールの容器に木の棒をつけ、ガムテープでぐるぐるまきに……。カメ号に変身だ。

スイッチON!
船を安定させたのは意外なものだった。

 理系エンジニアの知力は凄いけんども、しかし。編集者の執着力も結構なモノではないだろうか。海水に浸かりながら西脇と金子は、湯本から受け継いで船体の発泡スチロールを削る作業を続けた。

 この二人が力を併せるなどというのは前代未聞。金子は西脇のために、西脇はそのエネルギーを岩田先生のためにと半身を海水に没しつつ黙々と削り作業を続行しているのである。岡崎氏提案の上から重石を!を現場で推進したのは村長の湯本だった。上に重石は下に重石と同じである。

 「船の底に⋯海水の電導率を高めるために持って来た塩があるでしょう。石なんかよりも水を含んだ塩の方が重いから、それを!」

 と岡崎氏に言われ、その通りやってみたら、おおおお、ヤマト2がうまく海水に沈んだのだ。さらに安定させるためにフロートをつけて、電源スイッチON。

 ヤマト2の船体右から左に超電導コイルが磁場を作り、そして直交する方向にバッテリー16個が出す電流が流れ、両者共に直交する方向に電磁力が発生した。ヤマト2は、ゆっくりと前進し始めたのである。拍手が湧いたが、これは風と波、そしてバッテリーにつながる電線の重みに引かれて動いているだけなのかもしれない、と岩田先生が指摘。じゃあ、反対方向に動かしてみようと、+−を入れ替えてスイッチON。

おおっ、走ったぞ! 歩みはのろいが感動的だ!
歩みはのろいが感動的だ!
大成功!
安定したヤマト2は、スイッチを入れるとカメのごとくゆっくり走りだした。走り出した船はどうしても東西方向に向いてしまう。強力な方位磁針になっているのだ。

 岩田先生、岡崎氏、湯本村長、金子助役、そして主任西脇の世界初の「高温」超電導電磁推進船ヤマト2は、あああ⋯ゆっくりと動き出したのである。ボーゼンと見つめる村民の後ろで、岩田先生と岡崎氏がバンザイをしていた。世界初の凄さを、この二人が最もしみじみと感じていたからであろう。そこまでの苦難の道のりを知っているからだ。かつて山は動いた。そして今、船が動いたのである。

後日談

ヤマト2が海面に上手に浮かばず転倒しかけた原因は、高温超電導コイルを浸漬するためのステンレス容器が厚さ1mmだったためである。岩田先生の設計図ではステンレスの厚さ2mmとなっていた。その製作を専門業者に頼み、出来上がってきたモノが1mmというミスに気づかなかった西脇の責任はデカイ。船体重量が、おおむね半分だったのだから、そりゃあ⋯発泡スチロールの浮力に負けるわな。で、それに後日気づいたのは岩田先生だった。先生の計算ミスではなかったのである。先生の名誉のためここに記す。

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