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5月論文(第3論文)

 1827年にスコットランドの植物学者ロバート・ブラウンは水面に浮かぶ花粉を顕微鏡で観察し、花粉が細かく不規則に運動している事に気づいた。この現象が「生き物」に特有ではない事をブラウン自身が岩石の粉末等で確認したものの、「光の圧力で動く」といった様々な可能性が残されていた。花粉の1回ごとの“ふるえ”が溶媒分子1個との衝突に対応すると考えるとつじつまが合わない事がすでに知られていて、気体と違って液体中では分子どうしが接近していて固まりとして挙動するのだろうといった議論がはじまっていた。

 アインシュタインは、観測にのるような予測に常にこだわった。後に太陽の重力によって光が曲がる角度を一般相対性理論から計算したのはその一例である。5月論文で彼が導いた式は、ブラウン運動後の平均的な移動距離を、またしてもアボガドロ数に結びつけたのである。必要な数学はすでに4月論文で得ていたから、花粉のような微小粒子を砂糖のような分子と同様にとりあつかうだけでよかった。だから、4月論文の後、わずか11日間で5月論文は完成している。その末尾で、ブラウン運動を計測してアボガドロ数を決定するよう実験家達に呼びかけた。実験に取り組んだのは、またしてもペラン。実験は最初からきわめてうまくいったという。半径が異なる樹脂からくり返しアボガドロ数をもとめ、常に一定の値になることが分かった。この結果が発表されてから、分子や原子の存在を疑う者はなくなっていく。アインシュタインに1年遅れて、ペランは1923年のノーベル化学賞を受賞。

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