光軸のブレが大きすぎて、 なかなか対象物を探せない
空気望遠鏡とは、鏡筒のない代物である。向こうに対物の凸レンズ、こちらに接眼の凸レンズの2枚を置いて、中間には何もなしで空気だけなのだ。
凸レンズで物体を大きく見ることができるが、しかし。焦点距離が短いほど光の屈折が大きくなり分光が起こる。つまり色収差だ。焦点距離を長くすればいいのだが、そうすると2枚のレンズを支える鏡筒も長くなり、自重によりたわみ、風の影響を受けてブレるし、扱うのが実に困難になってしまう。そのために鏡筒を取り除いた空気望遠鏡!となったわけだ。
今回は焦点距離14mの空気望遠鏡である。焦点距離 9.5mの空気望遠鏡を造ったことのある岡村先生も、
「14mというのは凄い、凄すぎる。もしかしたら世界初かもしれない」
と呟いて声を震わせた。
校内駐車場に場所を移し、高所作業車のゴンドラに対物レンズを設置。目標の天体を自動追尾する赤道儀を併設してグイーンと迫り上げ、その高さは12.5mである。
空中作業主任は、学研・科学創造研究所の阿部だった。ところがこの男、実は高所恐怖症なのである。勇気を振るい12.5mの空に登ったのは、やはり村民が現役女子高生だったからではないか。
その阿部が1キロほど向こうのビル屋上の鉄塔先端にレンズを向けた。地上に移動式三脚接眼レンズ板を置き、2枚の距離を糸で測り14mに固定。阿部側が照射するレーザー光2本を、接眼レンズ板の二つの点にビタっと当たるように向きを整える。合致すれば、14m離れた2枚のレンズがほぼ平行、そして対物レンズを通って来た光を接眼レンズが直角に受けることになるのだ。
見にくい望遠鏡だが、遙か遠くの鉄塔先端が鮮やかに見えた。女子高生村民が、そのクリアさに次々と歓声を上げた。が、しかし…と後に溜め息を落とすことになろうとは、地上班主任・西脇は予想していなかったのである。
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