急げ! 土星は1秒に1mmの 速さで逃げていく
初春の日が落ちて、闇の空に土星が姿を現した。それは小さな点でしかなく、あの輪までは見えない。よって空気望遠鏡で、というのが今回の目的である。
女子高生村民にいいところを見せなければと並々ならぬ決意で臨んだ西脇の顔色が曇っていく。やはり地上12.5mのデッキが微妙に揺れているのだった。レーザー光も同時にブレる。そのために接眼レンズ板の向き・高さがなかなか決まらない。その上、赤道儀は土星をとらえているのに、間欠的に土星に雲がかかってしまうのだった。
女子高生村民と夕食を共にしたのだが、人数が多くて女子高生とは別のテーブルに座るハメになった助役・ハゲの金子の機嫌は悪い。西脇、お前、多摩川土手でプレ実験を重ねたんだろ。光軸を合わせる技術はマスターしたはずじゃないのか、え! と、雲間から出て来た土星の放つ光でハゲ頭を光らせながら、金子助役が主任西脇を責め始めた。
実はここのところ連日連夜、曇りの日ばかりだったこともあり、阿部と主任西脇のプレ実験は全て失敗に終わっていたのである。
「だから、2枚のレンズを繋いで支える真っ直ぐな金属棒を使う空気望遠鏡にした方が良かったんじゃないかな」
岡村先生が、そう言った。西脇主任の顔色が更に蒼ざめた。夜だから、他人にその実態は見えないが、口数が減ったことによりそれがわかってしまう。レーザー光を使うことにこだわったのは、西脇だったのである。本番で失敗すれば、某議員同様に雲隠れ入院ということになりかねない。西脇は必死だった。と、そのとき、
「雲が流れた。赤道儀は土星を鮮やかにキャッチしてる。光軸合わせはおおむねでいい。今だ、覗け!」
上空班の阿部から声がかかった。覗いたのは岡村先生だった。そして叫んだ。 |