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生命情報科学の源流

第4回 1941年、鋼鉄の伝説

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鉄人28号の真実

 第二次世界大戦は数々の伝説を残した。平成の今日でも、映画やアニメは、これらの伝説にその発想を負っている。空想界での日本海軍の雄は海底軍艦「轟天」である。原作は、1900年(明治33年)に出版された押川春浪の小説だが、1963年(昭和38年)に東宝が製作した映画はかなり違ったものになった。映画は、終戦時に伊403潜と共に行方不明になった神宮司大佐が、“南洋”の孤島で同志とともに「轟天」を建造しているという設定で始まる。そして、海底人のムー帝国の挑戦から地上人を守るべく、「轟天」は海獣マンダと戦うのだ。

 現実の日本海軍は、パナマ運河攻撃を熱心に研究した。パナマ運河を通行不能にしたなら、大西洋と太平洋に分断された米艦隊は、作戦上、重大な支障をきたす。このために、二隻の「海底空母」伊400潜と401潜を建造した。伊400クラスは、高性能の攻撃機「晴嵐」を格納、射出できる様に設計されていた。結局、パナマ運河攻撃は実現しなかったが、西カロリン諸島のウルシー環礁にある米前線基地への攻撃が計画された。しかし、攻撃に向かう途中で終戦となり、二隻は横須賀へと帰投。入港前日に指揮官の有泉大佐は拳銃自殺した。ペナンの第8潜水戦隊参謀だった時、有泉大佐は連合国船員の虐殺を命じたとされ、そのための自決といわれる。しかし、遺体が水葬され残らなかった事から、米占領軍は、有泉大佐の生存、逃亡を疑った。2004年(平成16年)の『ゴジラ・ファイナルウォーズ』で、「轟天」は南極に蘇った。新型「轟天」号が英仏海峡でマンダと戦うシーンを見せるサービスぶりである。

 一方、陸軍の雄は、「鉄人28号」。起死回生の秘密兵器として科学兵器研究所が開発した鉄人は、落雷の電圧を使って起動される。“霧箱”とは、宇宙線の飛跡を追うための装置だが、仁科達が製作したものは特大で、大変な電力を消費した。当初、国電の運転終了後に大井変電所で実験する案も出たが、1936年(昭和11年)に横須賀の海軍工廠の潜水艦充電施設を使う事になる。理研のサイクロトロン建設の前には、ヴァン・デ・グラーフ型加速器があった。回転するベルトに乗せた電荷粒子を中空の玉に蓄積する装置である。乾燥した日には、この玉から火花が飛んで瞬間的に高圧が得られた。「電気屋」の仁科は、赤城山で落雷をつかまえればもっと高い電圧が得られると考え、メンバーに実験を勧めた。しかし、当人が躊躇している内に同様の実験を試みたドイツで死者が出た。昭和の鉄人は、2005年(平成17年)、「鉄巨人」として蘇った。ただし、製作者の設定は正太郎少年の父から祖父に変わった。

 “鉄と人”の組み合わせで躍動する世界は、軽量・薄型の“電子”の今日とは違う、もう一つの時空への扉を開いてくれる。『ゴジラ・ファイナルウォーズ』の冒頭、南極の氷上で燃えるメーザー砲が、ほんの一瞬、写される。メーザー砲こそは、朝永振一郎の第二次世界大戦中の研究を、戦後の分子生物学へとつなぐ、そしてボーアの「光と生命」を日本の大衆へと結ぶ、架け橋だった。
第5回に続く。

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