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新型ピンホール式プラネタリウムで天の川をうつしたい

1.電球を作ることにした

▲1万個の星をうたい文句にした
大人の科学マガジン09号。

2005年9月に発売した大人の科学マガジンVol.09「究極のピンホール式プラネタリウム」は、発売以来版を重ね、発行部数は50万部を超えている。その年は、セガトイズの家庭用プラネタリウム「ホームスター」の発売、その両方の開発に関わったプラネタリウム・クリエーター大平貴之氏を主人公にしたテレビドラマの放映など、あちこちの科学館などでプラネタリウムが閉鎖していく中、不思議なことに、それとは逆行するようにプラネタリウムが話題になった年だった。

1万個の星空をうたったふろくのプラネタリウムは、部屋中を星でうめつくしてしまうところが特長だが、光源に使った普通の豆電球ではそのフィラメントの形がそのまま星の形として現れてしまう。ピンホール式である以上、それはしょうがないことだった。

発売直後から「次のプラネタリウム」を望む声は編集部に多く寄せられていた。その多くが「最近は高輝度LEDも安くなっているし、あれを使えばもっとすごいものができるでしょう」というものだった。ピンホール式の光源として、LEDは向いていない。というのも、ピンホール式は文字通り針でついたような小さな穴を通して、投影面に光源をそのまま映し出すしくみである。LEDは基本的に面光源であるため、垂直方向と水平方向からでは、見える形がちがってしまう。つまり恒星球のてっぺんあたりの星はきれいにうつせても、左右方向の星は扁平になってしまうのだ。理屈はわかっていながらも、かすかに期待をいだきつつ実験してみると、やはり理論どおりの星しか映せない。おまけに、目で見るとかなり明るいLEDの光もプラネタリウムの光源にしてしまうと、思ったほど明るくない。LEDの指向性の強さが実際よりも明るく見せているためだ。結論は「フィラメントの小さい電球があればなあ」である。

とにかく、ピンホール式プラネタリウムの光源に求められるのは“限りなく小さく”、“点に近い形”で、“ほぼ全方向から同じに見える”ということだ。LEDの面光源を点光源にできないものか、とLEDの光を光ファイバーや集光樹脂などで集めてみたらどうだろう、あるいは何かに反射させてみては、などさまざまな実験を行ったが、どれもうまくいかない。もちろん、ふだんは進行中の複数のふろくの開発を同時に行っているので、常にプラネタリウムの開発をしているわけではない。ほかの製品の合間に少しずつためしてみるが、なかなかうまくいかない。

今年(2013年)のはじめにも、編集部でプラネタリウムふろく開発のための会議を行った。なんとかLEDを使えないものか、何か物理的なしかけを考えられないものか、メンバーからさまざまな意見が出る。そのうち「ということは、電球を作るしかないっていうことですね」という意見に収束していく。オリジナルの電球を作るのに、どれだけのコストがかかるか想像もできないが、これだけ話し合って常に同じ結論にたどりつくわけだから、とにかくやってみよう、と思ったが、さて、オリジナルの電球はどうしたらできる?
ここでメンバーの一人が言った。
「以前、『大人の宿題提出』の連載記事で取材した細渕電球さんに相談してみてはどうでしょう」
職人による手作り電球で有名な電球メーカーである。
「たしかに、細渕さんならやってくれるかもしれないね。じゃあ、連絡してみて」
会議を終え、さっそく当時の記事担当者が細渕電球の担当者に連絡を入れた。
「できるかどうかわからないけれど、お話を聞かせてください」とのお返事をいただいた。

▲2006年発行の11号で、伊藤ガビン氏が細渕電球で電球の手作り体験をした。
ガビン氏の右が高橋社長。

2月の頭に細渕電球の高橋社長と西村工場長のおふたりが学研を訪れてくださった。社長の高橋さんは連載記事制作時にご対応いただいた担当者だった方。8年たったら社長さんになられていた。まずは、プラネタリウムの電球についての説明から。学研社内の業務用のエレベータホールには窓がなく、電灯を切ると真っ暗になるので、その場所に移動して、実際に09号のプラネタリウムを投影してお見せする。小さい星がフィラメントの形をそのまま映し出していることを確認していただく。
「だから、なるべく小さい点光源の電球がほしいんです」
とお願いしてみる。
「わかりました。まずはひとつ試作電球を作ってみます」
と高橋さん。しかも1週間で作ってくださるとのこと。期待に胸を膨らませてその日の打ち合わせを終えることができた。

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