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新型ピンホール式プラネタリウムで天の川をうつしたい

3.試作電球

2013年2月14日。細渕電球の最初の試作電球が届いた。通常の豆電球よりもガラスの部分がひとまわり、いやふたまわりほど大きい電球の中に小さな小さなフィラメントがついている。見た瞬間に普通の豆電球ではないことがわかる、その小さなフィラメントに期待は高まる。

さっそく09号のプラネタリウムに取り付けて、荷物運搬用のエレベーターホールへ。この場所には窓がなく、仕事をするフロアでは唯一暗闇を作れる場所だ。蛍光灯を消して、スイッチを入れる。ん?あまり…明るく…ない…というよりも暗い。しかたなく恒星原板を壁に近づけてみる。すると星の形が見事に丸く、小さいフィラメントの効果ははっきりと確認できる。フィラメントの大きさ、形は思い通り、しかし明るさが足らない。これらは、電話やメールで伝わるものでもないので、高橋社長に連絡して、その翌週に打ち合わせをお願いした。

同じ週のうちに中国からの電球も編集部に届いた。細渕電球製に比べると、若干フィラメントが大きいが、形は同じ傾向のものになっている。そして、細渕電球製同様に明るさが足りない。編集部一同 小さなフィラメントにして明るさを確保するということが、どうやら難しいことなんだと理解できた。

▲左が専用電球の試作第1号。右は中国製の試作電球。

翌週、高橋社長と西村工場長が来社された。試作電球の感想を伝える。
「フィラメント、小さいですね。まさにこの形が望んでいたものです。投影してみますので、いっしょに見てください」
お二人をエレベータホールへ案内し、部屋を暗くする。恒星原板を壁に近づけ投影し、星の形を確認してもらう。
「星の形、見事です。本当に真ん丸です。ただ、こうして壁から離していくと…」
と手を動かすと、少し離れたところで星が見えなくなってしまう。明るさが足らないことを伝える。「どのくらい明るくすればよいでしょう」との質問に、感覚的には倍くらいではないかと伝える。ためしに従来の豆電球の明るさと比較して、少なくともそれよりも明るくしたい旨を伝える。

「おそらく、何も問題はありません。来週にも新しい電球をお持ちします」とのお返事。要望どおりのものを1週間でできると断言できるところがすごい。ほっと一安心したところで、高橋社長に中国の試作電球を見ていただく。中国でも同時に開発していることはすでに知らせてあった。電球を手渡すと、高橋社長は鋭い目つきで電球の中をのぞきこむ。フィラメントの形、付け根の構造など一通り見終わったところで、こうおっしゃった。
「けっこう、がんばってますね。でも、負けませんよ。」

1週間後に高橋社長からメールが届いた。そこには、こう書かれていた。
「ご依頼ありました、影のない、2倍の明るさ 特別ランプできました」
メールをもらった翌日に会う約束をした。

あいさつもそこそこに、「とにかく投影しましょう」と、いつもの場所へ。
恒星球をのせ、投影する。部屋中が星につつまれる。星の形が以前より丸く、小さくなったため、これまでよりもコントラストがはっきりしている。しばらく言葉も出せず、みな黙って星を見ている。プラネタリウム本体を壁に近づけたり、遠ざけたり、また十二面体の面を変えたりして投影画像を見る。

「できましたねえ、これですね。すごい電球ですね」
と喜びを伝えた。これなら、これまでとはまったく違う星空を映せるにちがいない。

▲きわめて小さなフィラメントを持つ専用電球。
フィラメントと下の金具は手作業で取り付けているそうだ。

ここで、高橋社長から「そうですね。しかし、このままでは寿命が短いんです」と思いがけない言葉が。
「そ、そうなんですか。どのくらいですか」
「通常の半分くらいの時間しか持ちません」
「どうすれば、寿命を延ばせるんでしょう」
そのあと、電球設計の講義をお聞きしする。
「というわけで、フィラメントの巻きの回数と足の長さで調整しようと思います。ここで調整すれば、明るさをそこなうことなく寿命を延ばせるはずです。」
この調整がどれほど難しいことなのか、よくわかる。しかし、簡単に買える電球ではないので、寿命が少しでも長い方がよい。
「寿命の調整、お願いします。通常の電球なみにしてください」とお願いする。

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