特集記事一覧へ戻る

特集記事

新型ピンホール式プラネタリウムで天の川をうつしたい

5.恒星原板データ

電球が決まり、機構が固まったところで、本体のデザインを決めていく。パタパタ電波時計のデザインお願いしたユカイ工学の小島さんに、今回もお願いすることにした。いくつかのデザイン案の中から、見た目はもちろんのこと、組み立てやすさ、使いやすさ、さらにはコストを考えながら、しぼりこんでいく。恒星球の正十二面体の形は決まっている。最終的に決まった案は、恒星球の五角形をモチーフにした土台だった。架台をはさんで恒星球と土台が対称に近いスタイルになっている。電球のオンオフと回転のオンオフ、さらにはオートオフを実現するために、タクトスイッチを使用したスイッチ部分でアクセントをきかせるデザインとなった。デザイン図面と試作の現物をもとに、中国で金型の設計を始める。図面はメールでやり取りし、細かな修正を繰り返しながら、金型を彫り始める。すべての金型を彫り終わり、成型のテストが始まったところで、実際に中国工場でのチェックを行う。


▲小島さんのこのデザインラフから、ふろくのデザインが生まれた。

今回中国工場でチェックしなければいけない一番のポイントは恒星原板の印刷である。事前の印刷テストで複数の印刷工場からサンプルが出てきていたが、これらはすべて9号のデータを印刷したものだった。テストのために多少星の大きさを変えてみたりしたところ、どの工場も前回よりも小さい星を印刷できそうだった。9号ではシルクスクリーン印刷を使ったため、どうしても星の大きさに限界があった。今回は、天の川を点で表現するのだから、同じ印刷方法ではできないことは、最初からわかっている。新たな印刷方法がどれだけの実力なのかは、現地で確認するしかない。

中国へ向かう1週間前に、大平さんから待望の新恒星データが送られてきた。正十二面体のそれぞれの面に対して00~11と付番され、さらに各面の等級別のファイルに分かれている。これらは、印刷の仕上がりを見て、等級ごとに星の大きさを微調整するための仕様だ。さらに等級ごとのデータに加えて、今回の最大のポイントとなる天の川のデータも別ファイルになっている。まずは、星の大きさはそのままに、すべての等級のデータを重ね合わせてみる。PCの画面上に少しずつ星空ができていく感覚だ。データが間違いなく重なっていることを確認し、最後の天の川のデータを重ね合わせる。さすがに天の川の点はかなり小さい。画面上では本当にたくさんの点の集まりだが、画像を縮小していくと、もわっとした雰囲気になる。写真でよく見る天の川に似たものが目の前に現れる。
「すごい…」。
果たして、これが投影されるとどのようになるのか、中国でテスト印刷するためのデータを作成する。星の大きさを微調整したものを2パターン用意して、テスト印刷をお願いする。工場へ行く直前にテスト印刷したものの写真が送られてきた。印刷によって星が小さくなってしまうことを想定して、少し星を大きめにしたデータを送ったのだが、思った以上に忠実に印刷されているように見える。「これなら、もっと小さくても印刷できそう…」もちろん、星は小さければ小さいほどよいのだが、オリジナルのデータからの計算では、天の川の星の大きさは直径約0.1ミリだ。星の大きさをさらに微調整したデータを作成し、工場へ送る。この印刷結果は、現地で見ることになる。


▲パソコンの画面上に現れた天の川。

中国でチェックするためのデータには、最初のデータにさらに追加したものがある。それは、マゼラン星雲である。南天の天頂近くには、大マゼランと小マゼランのふたつの星雲がある。これらは、南半球では条件がよければ肉眼で見えるそうだ。本物のマゼラン星雲は見たことがないが、大平さんの初代メガスターを見たときに、肉眼ではっきり見える星雲の存在に驚いたのだった。あれだけは外せない。大平氏に連絡をとる。「そうですよね、マゼラン星雲ほしいですよね。これからデータを作ります。もう少し待ってください」と言われて、マゼラン星雲は少し遅れてやってきたのだった。日本で印刷の確認はできないため、現地での確認となる。天の川同様、どんなふうに投影されるのか、本当に楽しみだった。

BACK 1   2   3   4   5 NEXT

特集記事一覧へ戻る このページのトップへ