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新型ピンホール式プラネタリウムで天の川をうつしたい

4.恒星データの依頼とオリジナル電球の完成

プラネタリウムのハードウエアにあたる部分が固まってきたので、いよいよソフトにあたる恒星データの依頼だ。もちろん、今回もプラネタリウム・クリエーターの大平貴之さんにお願いする。これまでにも、「新しいプラネタリウムを作りたいですね」と、ことあるごとにお話をしてきた。そして、今回の開発の途中でも、そうした方向性をお知らせしていた。あらためて、正式に依頼するために、大平技研にうかがうことにした。

試作電球と新機構をそなえた試作を持参して、その両方を大平さんに見ていただく。まずは、あらかじめお伝えしておいた今回の新型プラネタリウムの方向性について、あらためて大平さんに説明する。ポイントは次の通り。

(1)電球の変更。専用電球を日本と中国とで開発中。
(2)自動回転機能つき。約10分くらいで1周するような機構を試作済み。
(3)電球を長持ちさせるためには電池駆動の方が有利。そして、電池を長持ちさせるためにオートオフ機能をつける。
(4)恒星球の大型化。現在の十二面体の1辺を1割アップする。
(5)恒星原板の見直し。等級別の星の大きさ、天の川、最低等級など。できれば南天も。

ひとつずつ説明したところで、現状の試作を見ていただく。まずは、試作電球から。
「これですか、新しい電球」
と言ったところで、フィラメントをのぞきこんだ大平さんが静かになる。だまって、じっと見ている。
「すごい電球ですね」
ようやく感想が出てくる。
「これは、いいものができますよ。すごいことができるかもしれません」
さらに、自動回転の機構もお見せする。ここは、少し小細工させてもらって、試作の架台に電球を取り付けて、その点灯を見ていただきながら、
「実は、今この架台は回転しています」と伝える。
「えっ、ホントですか?」大平さんが架台をテーブルにおいて、じっと見つめる。
「本当だ回っている。全然音が聞こえませんよ」と架台をのぞきこむ。
「回転部分を耳に当てると、かろうじて回転音が聞こえます」
架台を手に取り、耳に当てると、
「本当だ。でもこの音は普通に投影していると、まったく気づきませんね。星を見ているときにモーターの音がすると、とても気になるんですよね。これならその心配はありませんね」

ここから先は、もう説明がいらず、大平さんの中では作るべく星の姿は見えているようだった。前作と同じく、7等星以上の星。前作は1等星があまりに大きかったので、今回は全体的に星の大きさを見直す。そして、一番心配だったことを聞いてみる。
「今回は、天の川もピンホールで表現したいと思っています。可能でしょうか」
「できると、思いますよ。この電球があれば。あとは、星の大きさのバランスをどうとるかですね」

新型のポイントをいくつかあげたが、一番実現したいのは天の川だった。それが、できるという。もう、その言葉だけで満足だった。こまかいデータの仕様をつめて、依頼を終えた。

▲大平技研にて。自動回転の静かさを確認する大平氏。

3月下旬、今回は荒川区にある細渕電球のオフィスであり、工場におうかがいして、ほぼ最終試作を確認した。フィラメントの足の長さが二通りである。巻きの回数は調整の結果、8回に落ち着いていた。寿命テストの結果を見せていただく。明るさは、平均すると足の長い方が若干劣る。しかし、寿命は約2倍である。普通の豆電球と変わらない長さである。

実際に点灯して明るさを比較する。そんなに違いはわからない。
「足の長いほうで大丈夫そうですね」と伝える。
「これなら、安心して世に出せます」と高橋社長。
ついに、オリジナルの電球が完成した。

この日は細渕電球の工場見学もさせていただいた。さまざまな工程に専門の職人さんが作業をしている。電球がどうやってできるのか、そんなことを考えたこともなかったが、製作工程にさまざまな科学の要素がぎっしりとつまっている。このあたりの詳しいことは、本誌で記事にしているので、そちらをお読みいただきたい。

▲フィラメントを取り付ける作業をする職人。
熟練の腕と集中力が必要な作業だ。

ちなみに、中国で作っていた電球も何度か試作を繰り返していたが、この時点ではどうしても明るさを増すことができていなかった。これまでの試作の進化の過程と、この工場のようすを見て、今回のプラネタリウムは細渕電球製でいくことに決めた。そのことを高橋社長に伝えると、後日「日本の職人の技を多くの人に伝えられるよう、頑張って作ります」というていねいなお手紙をいただいた。

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